俺と同じようにみょうじに尻で弾き飛ばされた赤也は、この試合に目を輝かせていた。天衣無縫を開いた精市は、神の子と呼ばれるに相応しかった。


「坊やが負けた理由は経験の差、君があと2年早く生まれていれば、今日も君の勝ちだっただろうね」

「ちぇっ」


ふぁさりとジャージを肩にかけてベンチに戻って来た。青学に勝ったというのに、表情は引き締まったまま。完全勝利とは言えないからだ。







「みょうじ?どうかした?」


そう言えばいつもは五月蝿いくらい騒ぐみょうじが静かだ。


『なんでも、ない』

「嘘、テニスしたくなった?」

『!』

「大会、出場締め切りは来週なんだ」

「それってミクスドのっすよね!?」


赤也、お前は口を挟むな。中学でテニスを辞めたみょうじ。相当なプレイヤーだったことはテニス関係者なら良く知っていること。赤也が直接2人のダブルスを見たいと思うのは至極自然なことだ。俺だって興味はある。







解散して帰りのバスを乗り継ぎ閑散とした電車に乗り込んだ。


「来週、四天宝寺で交流試合があるんだ」

「「「『交流試合?』」」」


初耳だな。連休を使ってということか。跡部の発案だと聞いて納得した。


「みょうじは問答無用で連れて行くよ」

『え!やだよ大阪遠い!』

「それに関して跡部から伝言」


一つ目、ラケットを持って来い
二つ目、感覚を思い出しとけ


「そして三つ目……、文句も我侭も終わったら存分に聞いてやる、だってさ」

『あの馬鹿』







「みょうじにもう一度テニスをしてほしい人が俺だけじゃなくて安心したよ」

『……可哀想に、明日からみんな大変だね』

「それってどういう意味っすか!良い意味!?」


2年と半年、このブランクは一週間ではとてもじゃないが取り戻せない。普通ならば。

それでもデータがはじき出される。


「俺たちが地獄の日々を送る確率…98.9%」


うげえ、という赤也の声。みょうじが腹を抱えて笑う。


『真田もそんな嫌そうな顔するんだね!』

「お前との練習は骨が折れる」


ぶは、と勢いよくみょうじと精市が噴き出した。俺も身に覚えがあるだけに何とも言えない。精市とみょうじのダブルスと練習で散々組まされた弦一郎と俺。中学1年のあの記憶。三強ではなく、四天王だった頃が懐かしい。





EARL TORCH






『ミクスドの件も、感覚が取り戻せたら考えるよ』

「ああ、期限は一週間、俺もうかうかしてられないな」


精市がここまで楽しそうに笑うのを見たのは久しぶりだ。

貞治、どうやら俺たちのデータには誤りがあったようだな。みょうじは選手として戻って来るよ。


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