あれから何の進展も変化もないまま、俺たちは高校へ進学した。
みょうじはまた幸村と同じクラスだった。今度は丸井も一緒。同じクラスでも、交わす言葉もないほど関係は冷め切っていた。
しばらくして、幸村がみょうじに言った。
「テニスしたくないなら、テニスしてる俺たちを近くで応援してよ」
『知らないとこで倒れられても困るから見ててあげる』
みょうじは応援部に入って数日で応援団長になった。猛者50人程を従え声を張るみょうじは、女子生徒の憧れの的になった。
応援部の活動場所とテニスコートは互いによく見える。
繊細で優しく中性的な幸村、頼もしく男らしいみょうじ。そんな2人が常に共にいる。
高校でも噂の中心だった。
丸井は体育の授業でみょうじにこう言ったらしい。
「俺と打ち合え!ぎったんぎたんに叩きのめしてやる!」
みょうじはぽかんとした後に笑って頷いた。半年絶縁に近い状態だったとは思えないほど、その仲は急速に復縁した。
そして半年のブランクがあってもみょうじはやはり強い。
「ぜってー高校の間にお前に勝つからな!」
本気でテニスに打ち込み、本気で悔しがって、本気で楽しむ。ここでひとつ、欠けていたものが見つかったのかもしれない。
『丸井、もう1ゲームしよう』
「おう!」
「丸井との試合どうだった?」
『楽しかった、丸井弱いけど』
「うっせ!」
氷帝跡部の生き写し、天才コピープレイヤー、肩書きはどれも己自身を窮屈にさせる。他愛のない授業だからこそ、楽しんで本来の自分のプレイを楽しめる。離れていた距離が、少しずつ近くなる。
「次みょうじと幸村な!」
『それだけは勘弁』
「丸井とはしたのに俺とはしてくれないの?」
『じゃあ幸村対丸井と私ね』
「それいい!」
「2対1でも負ける気がしないや」
『うわうっざ』
「みょうじ足引っ張んなよ』
『は?誰に言ってんの』
「さっさとかかってきなよ」
「『うっぜぇ』」
そんなやりとりを授業中の教室から眺める。休み時間、後ろの席の柳生が授業が終わるや否や言った。
「珍しく微笑んでいたので驚きました」
「……見るんじゃなか」
恥ずかしくなって柳生が掛けている眼鏡にべたべたと指紋をつけた。ぷんすか怒る柳生を尻目に、テニスコートからじゃれ合いながら校舎へ戻る3人を見て、自然と口角があがる。
「ほらまた」
「うるさい」