もうテニスができないかもしれない。それを聞いたみょうじは、益々元気が無くなっていった。毎日毎日、幸村の元へ行き、励まそうと必死に元気そうに振る舞って、見ているこっちが痛々しい。
「雅治、」
「なんじゃ」
「みょうじさん、支えてあげて」
「…は?」
「幸村くんがいない今、あの子は誰に悩みを打ち明けるの?すべてを抱え込んでいるのに」
「!」
「ねぇ雅治、私あなたの隣にいて、幸せだったよ」
「俺も、居心地良かったぜよ」
「そっか」
「のぅ」
「ん?」
「ありがとう」
「こちらこそ」
互いに踏み出した。後ろは振り返らない。彼女には、俺よりもっと良いヤツが似合う。俺は、もうみょうじしか見ない。もう誰も、傷付けない。
「におー」
「なんじゃ」
「今日幸村んとこ行く?」
「ん」
「じゃあさ、」
珍しい。ブン太が食べ物を預けるなんて。見舞いの品を手に病室に入ると、幸村のベッドに突っ伏しているみょうじと、そのみょうじの頭を撫でている幸村が目に入った。こいつらはどこでもこんな調子か。
「見舞いに来たぜよ」
「ありがとう、みょうじは寝ちゃってね」
「ほぅ」
「ねぇ仁王」
「ん?」
「みょうじに、もうここへは来るなって、言った」
「え」
「そしたら泣き疲れて寝ちゃった」
「………」
「俺も前に向いて進むから、みょうじにも、進んで欲しい」
久しぶりに見る、幸村の心からの笑顔だった。
そのままみょうじを背中におぶって、深々と冷える夜道を歩く。
『幸村は…ずるいよ……』
「そうじゃのぅ、お前さんが寝たフリしとんも気付いとったじゃろ」
『前になんて…1人じゃ歩けない』
ぎゅうと巻き付いた腕に力が籠もる。
「誰も1人でなんか歩かせんぜよ」
『え?』
そっとみょうじを背中から下ろして向き合う。
「お前の仲間は幸村だけか?俺がこーんなに尽くしてやっとんのに」
『え、でも』
「でもじゃない」
今度は前から、抱き寄せた。
「お前さんは1人じゃない、俺もおる、俺も一緒に前に進んでやる」
腕の中のみょうじとしっかり目を合わせて続ける。
「じゃけぇ、前にずんずん進んで、幸村に手を差し伸べてやるんじゃ」
『手を…、』
「今日までじゃ、立ち止まるんわ、雅治くんの胸を貸してやるけ、たーんと泣いとけ」
ぎゅうぎゅうと、苦しいほどに抱き締めた。馬鹿野郎、涙混じりに聞こえた声に、そっとみょうじの頭にキスを落とした。