「明日から新学期じゃの」
「学校なくても部活だったし、毎度のことながら休暇って感じしないよね」
始業式前日、部活を終えて玄関口に向かう。前日から新しいクラス分けが貼り出されているからだ。ぞろぞろとラケットバックを背に歩く。
「また一緒のクラスだといーな!」
『えー丸井と一緒だとお菓子食べられるからヤダ』
「ひでぇー!」
『どっちがだ!』
先頭を歩く2人がぷりぷりと言い合っている。今年も同じクラス…、なれたらええのぅ。
部活終わりでそれぞれジャージを身につけた生徒が疎らにいる。クラスが多い中で自分の名前を見つけだすのには中々時間が掛かる。俺達は分担して名前を探すことにした。
『んーんーあ、真田はA組、柳生も一緒』
「ほう、一年宜しく頼むぞ柳生、蓮二はF組のようだな」
「ええこちらこそ、ジャッカルくんはJ組のようですよ」
「ふむ、データ通りか、こちらにはなかったようだ」
「J組か、さんきゅ、こっちも名前なかったぞ」
「こっちもなかったよ」
『あとは仁王と丸井が見てるとこだけだよ』
なんでじゃ。
「ちぇっ、また仁王と一緒かよ、俺らB組!」
「ということは…」
全員がもう一度貼り紙を見る。残るはC組。
「…幸村とみょうじはC組じゃ」
隣のクラス、されど違うクラス。丸井が宜しくな、と肩を叩くのにも曖昧に返してもう一度クラス分けを見上げる。溜め息しか出なかった。
元から仲の良い2人だ。噂はすぐに尾鰭も背鰭もついて広がった。
「え?俺とみょうじが?」
『有り得ないでしょ』
そう言いながらも2人は、本を読む幸村の隣でポッキーを食べているみょうじが、ときどきそれを幸村の口元に運ぶ。何も言わずに幸村もぽりぽりと、視線は本のまま。これなら噂も立つはずだ。
昼休み、4人で昼食を取るのは変わらなかった。でも周りが変わってしまった。
2人はお似合いのカップル、まったく嫌な噂も流れたもんだ。噂で済めばいいものの、無意識に見せつけられるようなこの状況に、自分の感情が凍り付いていく。心が凍り付く。
コート上の詐欺師は、コート上だけでなくなってしまった。
常に己の心を偽っていた。
桜は咲いても、俺は冬のまま。春は来ない。