好きだと自覚してから、俺は妙に気まずくなって、学校へ来ても教室にはいない。部活には出る。そんな生活を繰り返していた。
人をこんなに好きになるのは初めてで、自分自身どうすれば良いのか分からなかった。みょうじの近くにいると、余計なことをして嫌われてしまいそうで怖い。
近くにいたい。でも嫌われたくない。
「におー」
「なんじゃ、授業中じゃろ」
「先生が仁王連れて来いって、海原祭の決めるんだと」
「なんでもよかよ」
「そう言うと思って俺もサボリ!」
どかりと隣に座って菓子の袋をばりばりと開ける丸井。まったく呆れた。そんなんやから真田に控えんかって怒鳴られるんじゃよ。
「でもみょうじも可哀相だよな」
「……なにが」
「クラスの出し物演劇になってよ、あいつ美女と野獣の主役だぜ?今その相手決めんのにモメてんの、つっても俺が断ったからだけどな」
ばりぼりと菓子を貪る丸井の言葉がずがん、と耳を通り抜けた。こんなことをしている場合じゃなかった!大体お前の方が身長低いのになんでみょうじの相手なんじゃ!
「教室に戻るぜよ!」
「は?やだし」
「戻るったら戻るんじゃ!」
「お、おい引っ張んなって」
嘘だ。嘘だと言ってくれ。
「ということで!王子様みょうじさんお姫様仁王くんで!」
「普通逆じゃろ!なんで!」
『だって仁王が「相手は俺がやるんじゃー!」て教室に突っ込んで来たんじゃん』
「丸井!話が違うぜよ!」
「は?俺ちゃんと主役っつったろぃ」
普通お姫様側だと思うなり。がくりと膝をつけば、久しぶりに聞く担任の声が笑い混じりで余計に腹立たしく思えた。
「仁王お姫様やるんだって?」
みょうじから距離を置くのが阿呆らしく、いや、距離を置くと余計な虫がつきそうだからやめた。好きでも今はこのままで良いんだ。みょうじが色恋に興味を持ったら振り向かせれば良い。
久々にみょうじ、丸井、幸村と昼食をとっていると幸村に言われた。なんで知っとんじゃ。
「丸井がメールで部員に回してたみたいだけど」
「丸井、練習前校舎裏じゃ」
「わ、悪かったって!」
『つーか私も野獣って酷くない?真田辺りに変わってもらいたいんだけど』
「くっはははは!」
「そのときはプリンセスは丸井に譲るぜよ」
「俺全力で逃げるわ」
4人で声をあげて笑いあう。この空間が心地良い。なにを考える必要があったのか。みょうじの笑顔が見れるなら、近くにいて、一緒に笑いあっていればそれでいいんだ。