「仁王、お前最近変じゃね?」
「そうか?」
やっと口説き落としてテニス部に入り、ペアを組んでる柳生にもつい最近そう言われた。どこが変なのか自分でも分からない。
「それより丸井、みょうじは?」
「幸村くんとこ、試合来週だしな」
3人一緒だった昼食も、今ではこの大食いの子ブタさんと2人。空いたみょうじのスペースを埋めることもせず、不思議な距離を保って昼食をとった。
みょうじと幸村はシンクロが日常生活で出来る程の域まで達していた。そんな2人に噂が立たないはずもない。心が冷たくなっていく気がした。
「みょうじと幸村は付き合うんかのぅ」
言葉にすれば一層、感覚まで麻痺してしまいそうだ。
「みょうじと幸村くんが?ないない、だってあいつ女じゃねーし、立海の貴公子だし?」
あんぱんのカスと共に笑い飛ばしてくれた丸井に自然と笑いが零れる。たしかにあいつが色恋に目覚めるとは思えない。しばらくは今のまま、貴公子でいるだろう。きゃあきゃあ言われるのは嫌いじゃない、爽快な笑顔で言った彼女を脳裏に浮かべると食も進んだ。
『つまんないね』
「そう言わないであげなよ」
試合が終わる度に不貞腐れるみょうじを、さも可笑しそうにくすくす笑いながら窘める幸村。
どうやら好敵手になるようなペアはいなかったらしい。学生のミクスドなんて所詮即席ペア。全国1位の学校の男子ダブルスペアに勝つ実力を持つこいつらに、関東大会で適うやつらもいなかった。そして今は全国大会準決勝。6-0で軽く試合を終えて戻って来た。
『柳、決勝どこと?』
「大阪の四天宝寺か九州の獅子楽だな、どちらもお前たちと同じ1年ペアだ」
「へぇ、試合観に行く?」
『ちょっと興味あるね』
幸村が立ち上がって手を差し出し、それに捕まって立ち上がるみょうじ。それだけでも心がもやもやとした。
「クールダウンがてら観て来るよ」
『お腹すいたー』
「はいサンドイッチ」
『さすが幸村』
「みょうじの考え読み取って体が勝手に動くなんてすごく嫌だ」
「お前たちは無駄にシンクロしすぎている」
『仕方ないよ分かっちゃうんだもん、じゃ行ってきます』
幸村に手を引かれて行くみょうじ。胸がずきずきと痛んだ。
「仁王?」
「なんじゃ丸井」
「お前不機嫌なときは分かりやすいな」
「ほっときんしゃい」
「こないだからずっとじゃね?年上彼女に浮気されたのか?」
「もうとっくに別れとる」
「俺聞いてねーし!じゃああれか?次の女に男がいたとか」
「なんでそんなんばっかり」
「だってお前、」
やっとこの胸を占領するもやもやの意味がわかった。
「好きな女盗られたみたいな顔してんぜ?」
俺はみょうじが好きなんじゃ。