入学式に出るんも面倒で、遠くから聞こえる拍手も煩わしい。木陰のベンチで横になり空を見上げていた。桜ももうほとんど散って、葉桜になっている。春はもう過ぎつつあるのか。柄にもないことを思って自分に苦笑した。だが、途端に視界が黒くなった。
「ぶっ!」
『え!』
「なにするんじゃ……」
どうやら鞄が降ってきたらしい。体を起こすと女が走って来た……なんで裸足なんじゃ。
『ごめんねー!誰もいないと思ってぶん投げちゃった』
「お前さん入学式は?」
『サボって噴水で遊んでた』
「裸足なんはそれでか」
『ね、一緒に涼もうよ!』
「遠慮するき」
つまんないのーとか言いながらまた噴水でじゃぶじゃぶ遊んでいる変な女。新しい制服が濡れるんも気にせんのか。
ぶわっと風が吹いて残った桜が舞う。
俺は息を呑んだ。
噴水の水しぶきと桜で包まれた彼女の姿に。純粋に綺麗だと思った。
そして俺に向かって彼女は微笑む。
『綺麗な銀色だね』
もう遅かった。言うなればこのときからだ。胸が締め付けられるように痛い。
『あなた名前は?』
「仁王、お前さんは?」
『みょうじ!これから宜しくね』
「ああ」
入学式が終わって教室に戻る学生に紛れて行った。どこかでまた……いや、絶対に探し出してやる。
「あ」
『あ!なんだ一緒のクラスだったの?』
「みたいやの」
すぐに見つかって拍子抜けだ。隣同士に座ったところでチャイムが鳴った。
担任に入学式サボったことがバレて俺たちはどうやら目を付けられたらしい。俺の隣、みょうじとは反対側に座る赤髪のヤツ。さっきからじろじろとこっちを見てくる。なんなんじゃ。
「あ!思い出した!」
「うるさいぞ丸井」
「すんませーん!」
丸井と言うのか。今度はきらきらした目でこっちを見てくる。ほんまになんじゃ。
「お前みょうじなまえだろぃ?」
『え、なんで名前』
「お前のテニスすげーな!こないだの試合見てたぜ!」
なんじゃ、みょうじのこと見よったんか。彼女の前の席を陣取ってぺらぺらとまあよく喋る。
「あれ 、おめーもテニスすんの?」
「まあな」
『仁王もテニスやってんの?言ってくれれば良かったのに』
「つーかお前らどういう関係だよ、一緒にサボってたんだろ?」
『どうって言われても、さっき知り合ったばっかだよ、ね?』
「そうじゃの、鞄が降ってくるまでは赤の他人だったぜよ」
「鞄?」
『だからごめんて言ってんじゃんかー』
中学入って初めての友達は、品のある快活な変な女みょうじなまえと阿呆そうな赤髪の男丸井ブン太。
楽しくなりそうじゃ。