「なまえさーん」
『なに』
「俺、本気でなまえさんのこと好きなんすよ」
『うん、ありがとう』
「まだ部長には敵わないし、跡部さんにだってまだ……だけど!」
がしりと両肩を捕まれてびっくりする。周りには助けてくれる人もいない。どうしよう。
「だけど俺、」
「おい切原!何しとんねん」
「あんた、忍足さんだっけ」
「怖がっとるやん、やめーや」
「あんたには関係ない」
ああ、どうしよう。最近は自制できてた切原が充血しはじめた。
『切原、落ち着いて』
「なまえさんは下がっててくださいよ」
『待って!落ち着きなさい!』
「下がってろって言ってんだよ!」
がっと肩を押されて背中をフェンスに打ち付けた。それでジャッカルがこっちに気付いたらしく、真田に伝えている。ああ、まだ幸村と白石くんの試合中なのに。切原は謙也くんの胸倉を掴んでいる。まずい、そう思うと先に手が出ていた。ばしん、その場に似つかわしくない音が響いた。
『少しは落ち着けって言ってんだよこの馬鹿!』
「あ……」
「赤也!」
切原はようやく我に返ったようだった。真田が赤也を連れて行ったから多分お説教だろうな。
「大丈夫か?」
『え?』
「さっき思いっきり背中ぶつけたやろ?」
『大丈夫だよ、それよりごめんね』
「気にせんで、俺も煽ったようなもんやしな」
謙也くんがそう笑ったところでS1の試合が終わった。ごめん幸村、試合どころじゃなかったよ。
「幸村くん!」
「忍足、うちの馬鹿が迷惑掛けたね」
「いや、それはええねん……あんな」
「?」
「俺の試合んとき、言いよったやん?」
「ああ、本気付き合うってやつ?」
「あれ、ええわ」
「どうして?」
「俺はちゃんと向き合ってもろてから付き合いたいんや」
「それなら心配ないと思うけど」
「え?」
「みょうじは君のことちゃんと見てる、親友の俺が言うんだから確かだろ?」
「せやけど、」
「男見せなよ」
「!」
「結果はどうだって良いはずだろ?2年も追い掛けてるんだから」
「なんでそれを、」
「ほら行って」
知ってるさ、君がいつもみょうじを探していたことくらい。彼女の側にいるのは帝王と神の子。君は無知なまま、俺たちが大切にしてきた彼女に手を延ばせばいい。俺たちが許してる間に、ね。