あのあとすぐに両校が昼休憩を出した。絶対あいつらの仕業だと思う。白石くんが彼に手伝うついでに一緒に飯食うて来いとか余計なことを言うから断るわけにもいかず、幸村は無言で私の昼食を渡すし、その間も仁王と切原はぶーぶー言っていたが真田に捕まっていた。結局そのまま一緒にボトルと、途中預かった四天宝寺のタオルを手洗い場まで持って行って、近くの木陰で昼食を取ることになった。
手伝ってくれた彼の名は忍足謙也くんと言うらしい。まさかの氷帝忍足の従兄弟だった。私が景吾の従姉弟だと告げると心底びっくりされた。
「跡部の従姉弟…顔はよお似とるけど、性格は全然やな」
『それ良く言われる、でも謙也くんも忍足とは似てないね』
「あんなんに性格似とったら恥やで」
彼とはどうも気が合うらしい。従兄弟の話題から始まり、互いの部長が親友であるに加え魔王属性。どうやら立場や境遇が似ているようだ。
「楽しんどるところ悪いけど俺らも混ぜてや」
「げ、白石に幸村くん」
「お邪魔なのは分かってるけど、げって何かな?」
『幸村、その黒いのしまって、ご飯がまずくなる』
「失礼だね」
どうやら二人は偽装恋人の話をするためにやって来たらしい。節介仲良くなれたのにそんな話したらどん引きされるじゃないか。
「俺でええんやったら手伝うで!」
「本当かい忍足」
「よう言ったで謙也!」
何を勘違いしたか謙也くんはいきなりそう言った。というよりも勘違いさせるように言った二人が悪い。質の悪い奴に好かれて困ってるだ、彼氏がいないなら俺と付き合えと強引に付き纏うだ、間違ってはいないが謙也くんの脳内に切原や仁王のような奴がいないのは確かだ。柳まで幸村に呼ばれて、二人によって綿密な設定が考えられている。私はその間に謙也くんと連絡先を交換し、これから互いにどうするかを白石くんと三人で話し合っていた。
『謙也くん好きな人とかいたらごめん』
「そんな人おらんし、俺としては実は嬉しいんやで」
『え?』
「みょうじさん、実はな、謙也はみょうじさんのこと知っとってん」
『……ええ!?いつ!どこで!?』
「やっぱり覚えとらんか」
「2年前、俺らが青学に負けて謙也が号泣しよったときにハンカチ貸してもろてんて」
『そんなこともあったような……』
「みょうじさん、そのとき女テニやったやろ?たまたま女テニの決勝見ててな」
『え、あの試合を?』
「跡部の生き写しが散った試合、な」
「みょうじさん独自のプレイスタイルにこいつ魅了されよって、それからみょうじさんのファンになってんで」
『でも私はもう試合とかしてないし』
「やからや!やからこうしてまた会えて、俺めっちゃ嬉しいんや」
真っ直ぐな謙也くんの瞳に射抜かれた。どうしよう。胸がどきどきする。