【俺と彼】真田くん視点

今日は日曜。
一緒に宿題しようってことで大宮の家に来た。
休みのたびに、こうやって一緒にいれたらなー。
ううん。休みのたびじゃなくて、ずーっと。
早く大人になりたい。大人になって、一緒に暮らしたい。
大人じゃなくても、大学生になったら暮らせるかな…。

一緒に暮らすことを一通り想像したら、顔が緩んでしまった。
うお。ヤバイ。宿題真っ最中なのに変な顔してたらヤバイ。

視線をチラッと大宮に向けると、真剣に教科書に向き合ってた。
ああカッコいい。
真剣な大宮カッコいい。

ますます顔が緩みそうになったその時、大宮のケータイが鳴った。
メールかな…。
大宮はケータイを一瞥したけど、ケータイ触って内容を確認はしなかった。
俺と一緒にいるとき、大宮はいつもケータイ触らない。
俺との時間大事にしてくれてるのが分かって、いつもすごく嬉しい。

「メール、急ぎかも?見てみたら?」

本当は見て欲しくないけど、だけどもしも急ぎの用だったら申し訳ないし。
だから、気を遣って言ってみた。

「ん?じゃあちょっと見てみる。」

俺が水を向けると、大宮はケータイに手を伸ばした。
そんで画面を見て眉をしかめた。

「…トモからだ。『おこわって食べたことある?おこわ。そもそもおこわって何?』…だって。何でおこわ?」

そう言って首をかしげて、返信せずにケータイをテーブルの上に置いた。

ううーん。トモからだったのか。
いくら大宮の親戚でも、こうやって意味の分からないメールを送るのやめてほしいものだ。
なんていうか…くだらないメール・内容の無いメール送れるのって、仲のいい証拠だと思うし。

はぁ。
心の中で溜め息ついた。
少しだけ落ち込んでしまう。ただの親戚でも、イヤなものはイヤ。

嫉妬な気持ちを隠すように、俺はノートに目を落とした。
宿題しに来たのに、あんまり進んでない俺のノート。

そんなノート見てたら、大宮の声が降ってきた。

「真田。俺、母さんに風呂掃除頼まれてたんだった。
少しだけひとりで待ってて?」

お義母さんに頼まれてるんだったら、俺もイヤって言えない。
だって、俺と一緒にいたから家の手伝いできなかったとか、そんなのはダメだ。

「うん。分かった。待ってる。」

こくっと頷いた俺を、大宮はなでなでしてくれた。

「10分で戻ってくる。」

なでなでのあと、大宮はケータイを手に取った。あれ?お風呂掃除に持ってくのかな?って思ったけど違った。
大宮は自分のケータイをテーブルの真ん中に置きなおした。
そして部屋を出てった。

うううう。こ、これは。
ケータイ見てもいいって合図なのかな。

『ケータイを見たければ見てもいい』って言われたことある。
だけど、だけど。見ちゃダメだよな…。

『見ていいよ』って差し出しても、俺が遠慮するって思ったからこそ、大宮は分かりやすく置いていったんだろうけど!でも!

…い、一応。さっきのトモからのメールだけ確認してみよっかな?
いやいやいや。大宮を疑ってるわけじゃないよ。
だって俺は大宮好きで、大宮も俺のこと好きなんだし。うん。
でーもー。なんていうか。大宮が俺以外とメールしてるのって、どんな雰囲気の内容なのかなーとか。好奇心?好奇心で見ちゃいけないかもだけど、ええと。どうしよう。
写真とか、どんなのあるのかな。俺を隠し撮りした写真とかあるのかな。うわ。あったらいいな。大宮も俺のことコッソリ撮ってたりしたら、すごく嬉しい。

テーブルの上の大宮のケータイに何度も手を伸ばしては止め、でもまた手を伸ばし。だけど手に取ることができず。

そんな行動を繰り返していたら、階段を上る音が聞こえた。
時計を見ると、大宮が部屋を出てからちょうど10分。

もう10分経ったんだ…まじか。

………さっさと見とけばよかったな。なんて。





【貞淑な?奥さん?】幸前くん視点

体を鍛えるとか言って、ちーちゃんが腹筋してるとき、ちーちゃんのケータイが鳴った。この音はメール。

「誰からのメール?見てみて。」

そう言ったのは、俺じゃなくてちーちゃん。
ちーちゃんは腹筋で忙しいみたいで、俺にメールを確認させた。もー。ちーちゃんのケータイなのに。
だけど本当は嬉しい。ケータイ見てって頼まれるのは、すごぉく信頼されてるってことだもん。

手を伸ばしてケータイ取って、届いたメールをそのまま読んでみる。

「えーっとね。
山下くんから。『明日の数Bの宿題の範囲教えて』だって。」

ちーちゃんは腹筋続けながら、ううんと唸った。

「…どこだっけ。ていうか、宿題あったっけ?
カバンの中にノートあるから、ちょっと見てみて。」

ちーちゃんには秘密ってものが何にもないみたい。
ケータイもカバンも俺に見せて平気なんだ。

ちーちゃんのカバン開けたら、教科書とかプリントとか食べかけのパンとか出てきた。
「もー。ちーちゃんカバンの中、汚いよー」ってちょっとだけ文句言いながら、数Bのノート探したら一番奥底から出てきた。
ぺらぺらめくって、この前の授業のページっぽいところ発見。

「宿題、52ページの発展問題って書いてるよ。」

ちーちゃんが返信するのかなって思ったけど、ちーちゃんは今度は腕立て伏せし始めた。

「よし、じゃあ山下にそう返信しといてくれ。」

「もー。」

ちーちゃんってば、俺に甘えすぎ!
腕立て伏せ終わったら、今度は俺がちーちゃんに甘えちゃおうっと!





【手紙の君】透くん視点

夜、いつもどおり安堂と一緒に布団に入った。
大学4コマのあとバイトで、今日はかなり疲れていた俺は、安堂が何か話しかけてるような気がしたけど、返事できなかった。もう無理。眠い。
少し起きてるけど、ほとんど寝てる…そんな状態。もうすぐ夢に落ちそうな、そんな瞬間。

安堂が枕元に手を伸ばすのが分かった。
そして、うっすらと見える液晶の明かり…。
もしや、俺のケータイ見てるのか?
そう思ったものの、眠い俺は注意することできず、眠りに落ちてしまった。

翌朝、昨日のケータイの件を聞こうかと思った。
しかし、安堂は全くキョドってないし、そもそも俺はすごーく眠くて夢と現実の狭間にいたから、あれが本当にあったことかどうか自信がない。

まぁ、見られても困るようなものはないし、安堂はストーカー出身だから俺のケータイをこっそり見るくらいしてても意外ではない。

でもなー。もし見てるとしたら、ちょっとだけ仕返ししたいかもなー。
仕返し…。
厳しい仕返しは安堂が泣くかもしれないから、仕返しというかサプライズだな。


その日一日悩みながら、俺はメールを作成した。
大学で悩み、バイト先で悩み、そして家に帰ってからも悩んだ。
だけど、何とか安堂が帰ってくるまでに作成完了。

『言葉ではなかなか言えないから、メールで伝える。
安堂に好きになってもらえてよかった。安堂と付き合ってなかったら、俺は今頃何をしてたんだろうな?
毎日楽しい。ありがとう。』

一日悩んだわりには文字数が少ないこのメールを、安堂に送信せずに未送信の状態で保存。

俺が寝てる隙に、安堂が本当に俺のケータイを触ってるのか?触ってるとして、未送信のメールまでチェックするものなのだろうか?
明日の朝になったら、安堂の反応で分かるかもしれない。

ニヤリと笑ってしまいそうなのを抑えつつ、明日の朝に思いを馳せた。

しかし、明日の朝まで待つ必要は無かった。

安堂がバイト帰ってきたあと、一緒にご飯食べて、俺が先に風呂に入った。
そして、風呂から出たら、安堂が俺に飛びついてきたのだ。

「とーるくーん!メール読んだよー!
俺も毎日楽しいよ!」

感激してるのか、感情が昂ってるのか、安堂はケータイをコッソリ見たという行為を白状してるも同然の言葉を堂々と大声で伝えてきた。

そうか、安堂よ。寝てるときだけじゃなく、俺が風呂に入ってるときもチェックしてたのか。

「…そのメールは送信してないと思うんだけど?」

あくまでも冷静に事実を伝えると、安堂はバッと体を離して、顔色を変えて息を飲んだ。
ケータイをコッソリ見ることは、イケナイことだと分かってたらしい。

「見たかったら、見ればいい。困ることは、何もないから。
まぁ、ケータイをコッソリ見てるのが分かっても、それも全部含めて安堂がいる生活が毎日楽しい。」

直接言葉にすると、急に照れくさくなってしまった。
照れた気持ちをごまかすように、タオルで頭がしがし拭いた。

そしたら、安堂がまた俺に抱きついてきた。
激しく嬉しかったようで、ぐしぐし泣き始めた。

結局泣かせてしまった…。
少し反省。いや、反省しなくてもいいよな、これは。


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