02
そんな日々をしばらく送っていた俺は、感覚が麻痺してしまった。
今まで女子にモテたことないし、これからモテるとも限らないし…。
男だけど、俺のことを好きになってくれた吹野に真剣に向き合ってみようか…なんて思ってしまったのである。
「はい、蒲原、あーん。」
今日も今日とて、俺にパンを食べさせようとする吹野。
俺が頑なに口を閉じていると、ちぎったパンを俺の口にぐいぐいと押し付けてきた。
俺は初めて、ぱかっと口を開けた。
吹野はビックリした顔になって一瞬動きが止まったけど、すぐに俺の口にちぎったパンを運んでくれた。
「…今まで、悪かったな。」
男だという理由で、すげない態度を取って。
「え?
それって、俺と付き合ってくれるってこと?」
心なし、吹野の目がキラキラしてる。
「…あー、それは。」
そうだけど、クラスメイトがわんさかいるこの場では、言いにくい。
俺がごにょごにょと口ごもっていると、吹野は気を利かせてくれた。
「じゃあ、明日、デートしよっか?
そこで返事聞かせて。」
明日は土曜日、学校は休み。
「…おお。」
俺の初デート…。
初デートが男であることに、何の疑問も抱かない。
俺、吹野のこと好きなのかな…そんなトキメキを抱いてしまった。
もっとも、そのトキメキはすぐに消えてなくなったが。
放課後、今日はひとりで部活に出た。
今日は吹野は俺の部活についてこず、俺は黙々と新たなるPC用ゲームの作成に勤しんでいた。
吹野が楽しんでくれればいいなー、と思って。
ちっ。
ほだされちまったよ、俺は。
トキメキと、ドキドキ。
明日、デートだ…。
そんな気持ちでちょっとばかりウキウキしていたら、ウキウキしすぎてたのか教科書を教室に忘れていた。
宿題しなきゃだから、取りに行こう。
ウキウキな気持ちなので、面倒なんて思わない。
部活が終わって、校舎が静まり返った頃に教室に戻った。
教室の近くまで来ると、話し声と笑い声が聞こえてきた。
静かな校舎だから、聞こえてきたんだ。
そう、聞こえてしまったんだ。
盛り上がってるようだったので、ずかずかと教室に入るのが躊躇われた。
聞き耳を立てるのはマナー違反だと分かってるけど、好奇心に負けてしまった。
そしたらば。
「ねーねー、明日、蒲原くん怒るかなー?」
俺が怒る?
どゆこと?
「さー?
どうだろうなー?
つか、蒲原、意志弱すぎだろ。
男に言い寄られてフラフラ〜ってなるって、どんなだよ。」
「確かに。
でも仕方ないかもよ?
吹野くん、イケメンだし蒲原くんに優しかったしー。
それに結構押しも強いし。
ね、吹野くん?」
「うん。
蒲原は恋愛経験なさそうだしね。
押したら簡単かなって。」
「明日、蒲原くんにキスでも迫られたらどーするー?」
「その前にネタばらしするって。」
「面白そうな映像が撮れそうだな。
期待してるぞ、吹野。」
「任せろって。」
そして、大爆笑。
ネタばらし…。
面白そうな映像…。
…なんだ。
そーゆーことか。
俺、ゲームのターゲットにされてたんだ。
教室に入ることができず、逃げるように家に帰った。
宿題は、月曜の朝、学校でしよっと…。
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