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電車に乗って、街に出る。

銀行でお金全部下ろして、いつもの服屋でシーズンに合った服を数着買った。
着てた服はお店で処分してもらって、買った服を着て美容室に行った。
軽い感じに切ってもらって、すっきり。

カフェでゆっくりお茶飲んだり、買い物したりしてるうちに、日が暮れてきた。

そろそろ、ご主人様を探しに行こう。

俺がよく行くバーやクラブ。
いつもそこでご主人様を探す。

バーは開店直後で、あまり人がいなかった。

ちみちみお酒飲んで、声掛けられるのを待つ。
着いてこい、とか、こっちに来なさい、って言われるのがいい。

数時間バーにいたけど、これといったいい感じの人に声掛けてもらえなかった。
別のお店に行こうかな、と思って伝票を手に取ると、俺の隣に髪の長いお姉さんが立った。

「ここ、空いてるわよね?」

そんな風に居丈高に言われると、断れない。

「どうぞ。」

って俺が言う前にお姉さんは、当然のごとく隣に座った。

少し話しただけで分かる。
こーゆー女の人は容姿が自慢で、すごく自信家。

お姉さんは俺のスーツケースをちらっと見た。

「大きいスーツケース持ってるけど、家出?
帰るとこがないなら、ウチに来る?」

女の人は媚びるような目じゃなくて、挑戦的なエラそうな目をしてた。

そう。
こんな人がいい。
エラそうで、上から目線の人。

「うん。お姉さんの家に行く。」

俺がそう言うと、お姉さんはニッと笑った。

「じゃあさっそく行くわよ。」

俺の意見聞かずに、命令口調で勝手に決める。
ご主人様になってくれるかな、このお姉さん。


タクシーに乗ってお姉さんの家に向かった。
腕組んで胸押し付けられて、なんだかちょっと面倒くさい。

イヤだな。

お姉さんの家は、広いマンションだった。

寝室案内されたけど、お姉さんとひとつのベッドで寝るのがなんだかイヤだった。
今日はリビングのソファを借りるって言うと、お姉さんはちょっと鼻白んだ顔をした。

毛布をもらい、クッションを枕にしてソファで横になる。

目を閉じて、明日からのことを考える。
明日は大学行こう。
そんで、そんで…。
お姉さんのためにゴハン作る?掃除する?
お姉さんは俺の新しいご主人様?

わかんない。
前までだったら、このお姉さんみたいな人をすぐ好きになって、なんでもしてあげたくなったのに。

わかんないわかんない。

全然眠れないので、今何時だろうって思ってケータイで時間を確認した。

2時。

浅木、帰ってきたかな?
俺がいないって気付いたかな?

どう思ったかな?
俺が出て行って清々してるかな?
それとも、少しだけ悲しんでるかな?

もし、少しだけでも悲しんでくれてたら、嬉しい。



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