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俺の額に手をのせたまま、淳那さんはニッと笑った。
ちょっとだけ気まずそうな、そんな笑顔だ。
「創から仁の恋人役頼まれたとき、チャンスだって思った。
仁に初めて会ったとき、俺、仁に一目惚れしてたから。」
ひ、一目惚れ?
淳那さん、目が腐ってるんじゃなかろーか。
いや、そうではなく、淳那さん以外の人間の目が腐ってるのかな。
だから今まで俺はモテなかったのかも。
いや、今はそんな考察はどうでもよくて…。
「俺と創が街で遊んでたとき、会ったんだった…よな?」
俺がハッキリ覚えてない、初めての遭遇。
「ああ。
その時だ。
…創はあんな奴だから、創に相談なんかできねぇし。」
いや、そんなことないよ。
創はあんな奴だけど、人の気持ちをバカにしたり笑ったりしない。
…昨日、してたような気がしないでもないけど。
「仁、恋人役から、恋人になっていいか?」
淳那さんの目は俺を睨んでるわけじゃなくて、優しい目をしてる。
淳那さん優しいし、俺のこと大切にしてくれそうだし…。
女子に一切モテない俺のこと、好きになってくれる人はなかなか存在しないよな。
…って、つい最近もこんな考えを抱いたような気がするんだけど………。
「ちょおっとまったぁ!!」
俺が頷きかけた瞬間、ドアをバターン!と乱暴に開けて入ってきたのは、ここにいるはずのない人間…。
「吹野!?」
キリッとしたカッコいいキメ顔の吹野。
「話は全部聞かせてもらった!」
横になってた体を、むくりと起こす。
頭のなかはハテナでいっぱい。
「何でここに?」
吹野はカバンの中からごそごそとプリントを取り出して、ぶんぶんと振りかざした。
「今日の板書とったノートとか課題プリント届けるからって、先生に住所教えてもらった。
“ふたりもお友達が来てくれて、仁って意外と友達が多いのね”
なーんて蒲原のお母さんが言うから、俺以外に誰が来てるのかって、こーっそりドアの前で聞き耳立ててたんだよ!」
邪魔をされた?淳那さんは、吹野を今まで一番鋭い眼光で睨んだ。
「はぁ?
盗み聞きなんて、ダセェ真似してんじゃねーよ。」
睨まれた吹野は、淳那さんを睨み返す。
そして、ビシッと淳那さんを指差した。
「蒲原、コイツ、恋人じゃなくて恋人役なの?」
はい。
そうでございます。
でも、淳那さんの目が怖い。
「…えーと。」
淳那さんの目が怖いけど、吹野の迫力も怖い。
「蒲原ッッ!」
大声を出されたら尚更怖い。
もう素直にならざるを得ないよね。
「…うん。
吹野が俺のことゲームだっての、知ってたから。
だから、淳那に恋人役頼んで、吹野にギャフンと言わせてやろうと思ったんだよ。」
俺が白状すると、吹野はなぜか勝ち誇ったような顔をした。
「ふーん。
そうだったんだ。
じゃあ、コイツは単なる恋人役なんだよね?
恋人じゃないよね?」
「たった今、恋人になったんだよ。
だからお前は消えろ。」
「は?
蒲原はまだ返事してないだろ?
ほら、蒲原、このヤンキーに言ってやれよ。
“お前はただの恋人役だ”って。」
「えと、あの。」
「誰がヤンキーだ、コラ。」
「凄んだって怖くねーし。
ほら、蒲原、言ってやれってば。」
「ああ、えっと。」
「仁、この間男に引導を渡せ。」
「あああ、あの、その。」
俺は一体どうしたらいいんだ。
吹野が来なけりゃ、完全に淳那さんの言葉に頷くとこだったけど。
でも、吹野…。
俺にプリント届けに来てくれるだなんて、優しい…。
そんな優しさ、見せるな。
戸惑うだろうが。
どうしよ、吹野のことも淳那さんのことも…。
助けを求めて、窓の外を見る。
しかし、こんな日に限って創の姿は見えなかった。
「蒲原!
よそ見すんな!
俺と、このヤンキーと、どっちを選ぶんだよ!」
「仁、俺だよな。
くだらないゲームで人の気持ちを弄ぶような最低野郎なんぞ、顔も見たくないよな?」
何でふたりとも必死になってるんだよ…。
俺、泣きそうなんだけど。
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