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俺は今、淳那さんに跨られている。
両腕をがっしり押さえられているので、抵抗しようにもできない。
顔もめっちゃ近くて、淳那さんの息がかかる。
くすぐったい。

いや、くすぐったいとかどうでもいい。
何だこれは。

「…なぁ、帰り道、ずっと上の空だったな。
何を考えてた?」

10センチも離れてない、この近い距離。
目を逸らすことはできない。

「えと、あの。」

男子便所で吹野にキスされたことを、言うか言うまいか考えてました。
って言っていいかな。
どうかな。

ううん、困った困った困ったなー。

困った困ったと頭の中で考えてたら、淳那さんの目が細くなった。
睨んだともいう。

「正直に言え。」

「今日の昼休み、男子便所で吹野にキスされました…。」

俺は正直で素直な人間だ。
自分でも感心する、うん。

正直に言ったから、降りてくれるかな。
重いから降りてほしいんだけどな。

が、俺の願いは叶えられなかった。

淳那さんの顔が近付いてきて、あれ、近付きすぎたら焦点ってぼやけるんだ、なんて場違いなことを思った瞬間…。

ぶっちゅーと、熱いベーゼをされてしまった。

何なに?
恋人役って、ここまですんの?
ちょっともう、やめて。
舌をつっこまないで。
息ができないんですけど。

うう…、意識が朦朧としてきた。

俺は死ぬのか…。
ベッドの下に創の部屋から勝手に持ってきたエロ本があるのに…あれを俺の持ち物だと思われたくない…信じてくれ母さん…。

このまま窒息死するかと思われたその時。

ドンドン、という音が部屋に響いた。
その音で、淳那さんはバッと唇を離し、俺の上から降りた。
俺も体を起こし、淳那さんとふたりで音のする窓を見る。

見ると…。

創が棒で俺の部屋の窓を突いていた。
ていうか、突きながらニヤニヤしていた。

ああ、うん。
創の部屋の窓から、俺のベッドは見える位置にあるからね…。

って、うおおおおおい!

俺は思わず淳那さんを押しのけた。
バッシーン!という音を立てて、乱暴に窓を開ける。

「創!
見てんじゃねーよぉ!!」

「あ、仁。
貞操の危機っぽかったから、助けてあげたのにー。」

いやいやいや。
違うだろ。
完全に冷やかしだろ。
お前の今の表情、俺のこと心配してるような顔つきじゃねぇよ。

「うっさい。
創のアホ!
アンポンタン!」

創は俺の罵詈雑言を気にするでもなく、俺の後ろにいる淳那さんに笑いながら話しかけた。

「おーい、淳那。
ちょっとがっつきすぎじゃね?
仁のこと、マジなの?
恋人役から恋人にランクアップ?
あはははは。
ウケるー。
趣味悪ぅー。」

くるっと後ろを振り返ると、頬の筋肉をピクピクと痙攣させている淳那さんがそこにいた。

「…明日も、学校に迎えに行くから。
あの男に触られんなよ。」

淳那さんはそれだけ言い残し、部屋から出ていってしまった。


俺は何で淳那さんにキスされたんだ?
恋人役だから?
恋人役って、そこまでするもんなの?

創の笑い声をBGMに、俺はベッドに突っ伏した。
なんかもう、分かんない。



そして翌朝。
………考えすぎて、知恵熱が出た。



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