09
今日からはひとりでゆっくり昼休みを過ごせるな…。
昼休みになり、そんな思いで購買へ向かおうとした。
そしたら、後ろから襟首を掴まれて、ぐいっと引っ張られた。
ぐいぐいぐいっと引っ張られて、後ろ歩きで連行される。
首をぐりっと回すと、俺を引っ張ってるのは吹野だった。
「吹野、何の用?」
尋ねるけど、小難しい顔をしてぐんぐん歩いていく吹野。
どこに連れて行かれるんだろうか。
ていうか、何の用なんだろうか。
ぐんぐん歩いて、ようやく解放された場所は男子便所だった。
特別教室が並ぶ場所にあるので、ほとんど誰も来ない。
え?
俺どうなるの?
殴られんの?
俺、ケンカしたことないんだけど。
創とプロレス技をかけあう(と、いうか、かけられる)ことはあっても、ケンカしたことないんだよ、俺は。
なんてドギマギしていると、吹野が爽やかに発言した。
「蒲原、俺、決めた。」
「…何を?」
「蒲原が誰と付き合ってても関係ない。
俺、蒲原のこと好きだから。
だから、絶対に蒲原のこと落としてみせる。」
なんで俺は男子便所でこんな話を聞いてるんだろ。
と、思ったら、吹野が俺のネクタイをぐいっと掴んで、俺の口と吹野の口がくっついた。
くっついた、っていうか、これってキス?
ちゅぷっと音がして、くっついていた口が離れた。
「そーゆーことで、これからよろしく。」
ニッと笑った吹野はいつもよりカッコよく見えたけど。
けど、でも。
おおお、俺の初めてが…。
男子便所で奪われてしまった…。
吹野は俺を残して、男子便所から颯爽と立ち去った。
………俺は予鈴の音で意識を取り戻すまで、呆然と立ち尽くしていた…。
ふらふら〜っと教室に戻り、ぼけーっと午後の授業を受けた。
目の端に映る吹野は、午前中とはまったく違う。
いつものように、元気いっぱい。
なんじゃい。
人の心を弄びやがって。
俺のファーストキス、返せ。
ばかばかばかばか。
………ふっ。
空しい。
ぼけーっとしていたらいつの間にか授業が終わってたので、とっとと帰ることにする。
こんな日は、家でぼんやり過ごそう。
いつも大体ぼんやりしてるけどね。
カバンに教科書をつめていると、後方から弾むような声が聞こえてきた。
「蒲原ー。
かーえーろっ。」
くるっと振り返ると、吹野がぴょんぴょんと跳ねるように俺の席に近付いてくるところだった。
何?
なんでそんな嬉しそうなの?
無言でガタガタと席を立つと、吹野は俺の後ろをついてきた。
「今日は部活行かないの?
俺、また蒲原が作ったゲームしたいな。」
無視。
しーん。
全然心痛まないもんね。
ホントだもんね。
「蒲原ー。
ね、ね、寄り道して帰ろーよ。
何か食べに行こ?」
靴を履き替えていると、シャツをくいくいっと引っ張られた。
何だ何だ。
何でそんなことすんだ。
心が揺れるだろうが。
「…行きません。」
「あはっ。
やっと喋ってくれた。」
何、そんなことが嬉しいの?
ちょっと止めてくれよ。
俺の心がぐっらぐらになるだろうが。
早足ですたすたすたと校門へ向かう。
後ろから吹野もついてくる。
なんだよ、もう。
放っておいてくれよ。
溜め息をつきながら、さらに足を速めようとする。
が、校門前の人物を見て、足が止まった。
「仁、遅かったな。」
オシャレな感じで制服を着崩した淳那さんがそこにいた。
あのメール、宛先を間違えてたんじゃないんだ。
俺を迎えにきてくれたんだ。
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