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「長居、頼みがある。
一生のお願いだ。」
ある日、大学で友人が俺に手を合わせて拝んできた。
「…何?」
あまり、いいお願いではなさそうな予感がする。
友人は真剣な顔で、口を開いた。
「ミカちゃんが俺に振り向いてくれないのは、俺の顔のせいじゃないと思うんだ。
まぁ、いつも長居と一緒だから、霞んではいると思うけど。
でも、問題はそこじゃなくて。
ミカちゃんのハートを手に入れることができないのは、トーク力が足りないからだと思う。」
…真面目に考えた結果なのだろう、が。
トークがどうこうより、もっとアピールするところがあると思う。
お前、迷子の子どもを交番へ連れて行ったり、ほとんど英語できないのに道に迷った外国の人に話しかけたりしてたじゃん。
そーゆーところをアピールするべきでは?
そう言おうとしたが、友人の口はまだ止まらないので、取りあえず最後まで話を聞いてみる。
「で、さ。
俺、考えたんだけど。
ホストの人って、顔が普通でも、トークの力で稼ぐ人は稼ぐんだって。
だから、お願い!!
俺と一緒にホストクラブに行ってくれ!!
そんで、どんなトークをしたらモテるのか一緒に研究してくれ!!」
そんな研究はひとりでしてくれよ…。
と、思うが、無下にするわけにもいかない。
「金は俺が払うし。
大丈夫。
男でも入店できるみたいだから。
ちゃんと、ネットで調べた。
初回はそんな高くないみたいだし。」
俺が一切考えていないことを、先回りして教えてくれた友人。
その必死さに、笑ってはいけないのだろうが少し笑ってしまった。
「…自分の分は、自分で出すし。」
「あ、り、が、とー!
さすが長居。
思い立ったら吉日だよな。
俺、今日、バイト休みなんだ。
長居、バイト何時まで?
その後で、行こうぜ。」
その行動力で、ミカちゃんにもっと直接的にアピールしろよ。
と、ツッコミを入れたいところだが、楽しそうにしているので何も言わないでおく。
「20時まで。
俺のバイト先、知ってるだろ?
それくらいになったら店まで来て。」
訳の分からない研究の片棒を担ぐことになってしまったが、再び大げさに謝辞を述べる友人の姿を見ると、こんなことがあってもいいかと思ってしまった。
あの街に、ホストクラブは数十軒ある。
まさか、朱理さんに会うことはないだろう。
少しだけ不安な気持ちが胸をよぎったが、もし朱理さんに会ったら、朱理さんの論理を突きつけてやろうと思った。
“ホストクラブの客が、同伴でもアフターでもないのにホストと個人的に会うのはルール違反なんですよね?
俺、朱理さんのお客さんになったから、もうこれからは朱理さんとこの店の外では会えないですよね?
朱理さんのルールに反しますから。”
そんなことを言ったら、朱理さんはどんな反応をするのだろうか?
少しだけ、意地悪な気持ちになった。
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