2といいながらも、実質は3話目です。

10000hit企画小説の
続・兄という存在は
の、続きです。




俺は、兄ちゃんに逆らえない。
幼少期からの数々の理不尽な扱いがトラウマになっているからだ。


だから、今も命令に従っている。


「なぁ、奥野。
最近よく写メ撮るよな?」

「そっか?
気のせいじゃないかな?」

…やっぱ、バレてたか。

俺は兄ちゃんの命令で、友人の菅谷の写メを一日に三回は兄ちゃんに送らなければならない。

許せ、菅谷。

今は昼休み。
焼きそばパンを夢中でほおばっていた菅谷を撮ったところだった。

朝、寝癖を一生懸命直そうとする写メを撮ったから、今日のノルマはあと一枚…。

「なーなー。
最近、泰成さんと話した?」

泰成というのは俺の兄ちゃんの名前だ。

「いや。
別に何も。」

俺は兄ちゃんと話をしない。
兄ちゃんが一方的に俺に命令するだけだ。

「そか。
あのさー、…泰成さんて、彼女とかいるのかなー?」

菅谷、兄ちゃんのことが気になるのか?
止めとけ、騙されてるぞ。
弟としては、オススメできない物件だぞ。

「そーゆー話、したことないから知らないなー。」

兄ちゃんが高校生の時は、よく色んな女の子を家に連れてきてたけど…。
それは黙っておこう。
そんなこと喋ったって兄ちゃんにバレたら、俺の命が危険で危ない。

もそもそと焼そばパンを食べる菅谷。

兄ちゃんのことが気になるのかな………。
兄ちゃん、菅谷のことが好きで優しくしてるみたいだし。
もしかして、菅谷も………?


「今日の体育って、体育館だっけ?
グラウンドだっけ?」

急に話題を変える菅谷。
兄ちゃんの話はもうしたくないのかな?
俺も兄ちゃんの話はしたくないけど。

「グラウンドだろ。」

あ、そうだ。
本日のノルマの最後は着替えてる菅谷にしよう。
いつも、制服ばっかだし。

体育の授業の前、菅谷が体操服に着替えてる時、隙を見て写メを撮った。

スラックスを脱いで、シャツに下着姿…。

何か、ちょっと悪いことしちゃったかな。
菅谷、ごめん!!

今度おごるから許してくれ。

と、心の中で謝罪する。

それはそうと、忘れないうちに送信しとこう…。
教室を出る前に、兄ちゃんのケータイに写メを送っておいた。


午後の授業も終わり、放課後。

体育のあとに古典って、俺の精神が蝕まれるわ。

やれやれ…今日も無事に終了だ。
そう思って、カバンに入れておいたケータイを何気なく確認する。
………着信35件。

授業中はサイレントモードにしてるから、全然気付かなかった…。
いや、このままずっと気付かなかったほうが幸せだったかもしれない。

全部兄ちゃんからの着信だった。

「奥野、帰ろうぜ。
…ん?何か、顔色悪くね?」

「あー、いや。
その、別に。」

何も知らない菅谷。
心配してくれてありがとよ。

「ちょっと、トイレ。」

ケータイを握り締めてトイレへ走る。
個室に入って、兄ちゃんに電話。

兄ちゃんはワンコールで電話に出た。

『カズッ!
テメェ、いやらしい目で菅谷くんを見てるんじゃねぇだろうなッ!?
着替えてるとこ見てるんじゃねぇよッ!
お前の目ぇ潰すぞッ!』

ひー!!
兄ちゃんは菅谷の着替え写真が気に入らなかった模様です!

つか、いやらしい目で見るわけないだろが。
プールの時間の時、着替える全裸の菅谷を見たことあるけど、何も思わんかったわ!

なんて言ったら、それはそれで俺の命が危険で危ない。

「兄ちゃん、菅谷は友達なんだから。
男の菅谷を変な目で見ないって。」

何とかして兄ちゃんを宥めようと心を砕いていたら、トイレのドアが開く音が聞こえた。
そして、個室の外から菅谷の声。

「おくのー?
腹、痛いのか?
大丈夫かー?
家まで送っていこーか?」

あああ、このクソ忙しいときに!
つか、声でかい。
兄ちゃんに聞こえるだろが。

「菅谷、大丈夫だから。
もうちょっと待ってて。
できれば教室で待ってて。」

「んー、分かった。」

菅谷はおとなしくトイレから出ていってくれた。

ふー、と思ったのも束の間。

『カズ、てめぇ、送ってもらうつもりじゃねぇだろな?
菅谷くんの手を煩わせてるんじゃねーぞ。』

低音で響く、兄ちゃんの声。
菅谷とのやりとりが全部聞こえていたようだ。

「送ってもらわない。
大丈夫。
じゃ、そーゆーことでっ!」

一方的に話を切り上げ、通話を終了。
一時の平安の為に、電源も切っておく。

ふー…、疲れた。

もういっそのこと、兄ちゃんと菅谷がくっついたほうが、俺はラクなんじゃないかな…。





あとがき

友人の奥野くん視点でした。
奥野くん、なぜか苦労してます。



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