「明日、もし暇なら遊びに行かない?」
「よかったら、お茶でも飲みに行かない?」
「あ、春村くんも今帰りなんだ。一緒に帰らない?」
この数ヶ月、こんなナンパみたいなセリフを何度言おうと思ったことだろう。
春村くんと俺の接点。
それは、一年生の時、文化祭実行委員のメンバーだったということだ。
と、いっても違うチームだったから、ほとんど面識はないんだけど。
春村くんは、委員会の話し合いの時に板書を担当していた。
その字がすっごくキレイで、俺は春村くんのことを気にするようになった。
春村くんは俺より少し背が低くて、ちょっと猫背。
春村くんを見かけるたびに、あの猫背に触ってみたいと思うようになった。
ある日、春村くんが女子と楽しそうに話してる姿を見て、胸がツキンとした。
このツキンという感情の正体、俺は知っている。
でも、その感情を春村くんに当てはめていいものかと悩んだ。
今まで女子にしか感じたことのない気持ちだったからだ。
おいおい、どーしちまった俺。
「ねーねー、柚月くん、今度遊びに行こーよー?」
可愛い女子の誘いにも、全く食指が動かない。
「柚月くん、今、彼女いないの?
あたし、柚月くんと、付き合いたいな。」
美人な女子の告白にも、全く心が動かない。
どんな女子に誘われるより、告白されるより。
春村くんが誘ってくれたり、告白してくれたりしたらなぁ…。
と、思ってしまった。
それって、つまり。
俺、春村くんのことが好きなんだ。
俺は、そうしてようやく自分の気持ちを認めることにした。
しかし、文化祭が終わったら、委員会の活動も終わった。
春村くんとの接点もなくなった。
何のアクションも起こせなかった俺。
しかし、神は俺を見捨てなかった。
ある日、俺が帰りのバスを待っていたら、たまたま俺の後ろに春村くんが並んだのだ。
ドキドキして何も話せなかった。
春村くんは、自転車通学のはずだったけど…。
春村くんがバスで帰るのはその日だけかな?と、注意深く観察していたら、どうやら自転車通学からバス通学になったようだった。
断っておくが、俺はストーカーではない。
好きな人のことを知りたいと思うのは当然だろ?
春村くんの帰る時間帯は、いつも大体同じだった。
だから、俺もその時間に一緒にバスに乗ることにした。
バス停で、バスを待つ春村くん。
その春村くんのすぐ後ろで一緒にバスを待つ俺。
そして、冒頭に戻る。
春村くんがバス通学を始めてから数ヶ月、俺は一度も話しかけたことがない。
今日こそ話しかけようと思って数ヶ月。
明日こそ、話しかけてみせる!!
あとがき
卒業するまでには話しかけることができるといいですね…。
短編topへ