いつもの朝。

「久志ぃ、朝だよ〜。起きろ〜。」

俺は、幼なじみの真人に毎朝起こされる。

かぶっていた布団をひっぺがされると、既に制服に身を包んだ真人が目の前にいた。

くりっとした大きな目、形の良い鼻、少し薄い唇。
所謂、美形。

「近いんだよ、バカ。」

目が覚めて、一番に見る顔が真人。

こいつに恋する女の子だったら、きっと幸せな状況なんだろうな。

「早く顔洗いに行こ〜。」

真人は俺が顔を洗うのにもついてくる。
中学生の頃からずっとこうなので、もう慣れてしまった。

慣れって怖い。

顔を洗い、制服に着替える。
もちろん、着替える時も真人はそこにいる。
男同士だから、着替え見られても平気だけど…。

真人は俺の家で朝ご飯を食べる。
俺の父さんは単身赴任中。母さんは俺が起きる前に仕事にでかける。

だから、毎朝真人といっしょに朝ご飯を食べてるわけだ。

にこにこしながらご飯を食べる真人。
いつも美味そうに食うよな…、そんなことを思う。

もちろん登校も真人と一緒だ。

高校までは、歩いて10分。

俺の頭で入れるかどうかギリギリだったが、家から近いので絶対この高校に通いたいと思って受験勉強を頑張った。
真人は俺より頭がいいから、もっとレベルの高い学校を受験するかと思ったのに、「家から一番近いから」という理由で同じ高校に通うことになった。


学校が近づくにつれ、真人に声をかける生徒が増える。

「真人くん、おはよー。」

「先輩、おはようございます〜。」

真人は美形だし、背も高いし、やたらモテる。
俺は顔は平凡だし、背も平均。
いまだかつて、モテたことはない。

いいんだけどね。別に。

「おはー。」

校門で、友達に声をかけられた。

「はよー。」

俺も挨拶を返す。

「お前の幼なじみ、今日もモテモテだな。」

「だな。」

真人は女の子の集団に取り囲まれてしまったので、後ろに置いてきた。

「幼なじみがあんなにモテモテなのに、よくお前卑屈にならずに生きてるよな〜。」

褒め言葉?それ?

「真人がモテようがモテまいが、俺には関係ないよ。
いつか、俺だけを好きになってくれる女の子が現れる………はずだから。」

「…ま、人生は長いからな。気長に待つことだな。」

友達は俺を、可哀想な人を見る目で見てきた。
失礼な奴だ。

「久志、待ってよ。」

いつの間にか、真人がすぐ隣にいた。

「あぁ、悪い。」

とは言うものの、女の子に囲まれてる傍で待つとかできねーって。



昼は、真人の作った弁当を真人と二人で食べる。

「午前中、何か面白いことあった?」

真人はやたら俺のクラスのことを知りたがる。

「古文の宿題忘れたから、居残り命令された。」

そう。俺は古文の宿題をすっかり忘れてたのだ。

「だから、今日は先に帰っててな。」

眉をしかめる真人。

「………待ってる。」

「待たなくていいって。
ちゃっちゃと終わらせて帰るから。」

「………ん、分かった。」

真人は、しぶしぶ了承した。



放課後。古文の居残り真っ最中。

「あの…私、久志くんのことが、ずっと好きだったの。」

同じクラスの女の子に告白された。
せーてんのへきれき、だ。

「返事は、すぐじゃなくていいから…。
じゃあ、またね。」

女の子は、顔を真っ赤にして教室から出ていった。

うわぁ。
告白された。
嬉し……。


ドキドキにまにましながら家に帰った。

部屋に入ると、俺のベッドに真人が寝転がって雑誌を読んでいた。

「おかえり。遅かったね?」

「真人、どうしよう。
クラスの女子に、告白された。」

真人がベッドから起き上がった。

「返事、した?どんな子?付き合うの?」

「返事はまだしてない。
でも、付き合ってみようかな。
俺のこと、好きって言ってくれたし…。」

真人がいつになく真剣な目をしていた。

「そう…。おめでと。」

真剣な目なのに、そっけない祝福。
平凡のくせに、とか思ってんのかな?


翌朝も、いつもと同様の朝だった。

俺を起こしにくる真人。
一緒に登校する真人。

「今日、放課後に返事するから、今日も先に帰っててな。」

俺は昼休みに真人に言った。

「分かった。」

さすがに今日はあっさり了承してくれた。


そして、放課後。

「昨日の返事なんだけど…。」

昨日、告白してくれた女の子を呼び出した。

超緊張する。

「俺でよかったら、付き合ってください。」

言った!言ったぞ、俺。

女の子がどんな反応するのか、ドキドキしながら待つ。

「ちょっと、昨日の告白、本気にしたわけ?
めっちゃウケるんですけど〜。」

え?どーゆーこと?

女の子はケラケラ笑い始めた。

「だから、冗談だってば。
からかっただけだってば。
自分の顔、鏡で見てみなよ?
気付くでしょ、フツー。」

笑い続ける女の子を残して、俺は走って家まで帰った。

なんだよ、これ。
俺が何したっていうんだよ。
何で、笑いながら人の気持ちを傷つけることができるんだよ。


家に帰ると、今日も真人が俺のベッドに寝転がっていた。

俺の、いつもと違う様子に気付いた真人。

「久志…どうしたの?」

「真人、俺…。」

笑い話にしてやろうと思ったが、できなかった。

みっともなく、真人の前で泣きながら今日のことを説明した。


「そうだったんだ…。
俺、許せない。久志を、傷つけるなんて。」

真人は泣いてしまった俺をそっと抱きしめてくれた。

「ん、いいよ。真人、慰めてくれて、ありがと。」

真人は優しい。

「女の子って、怖いね。
久志には、俺がいるからいいじゃん。」

幼なじみとは言っても、いつまでも一緒ってわけにはいかない。
でも。

「そうだな。真人がいれば、いいか。」

今日は、そう思うよ。






久志はバカだ。

俺がいるのに。

「いつか、俺だけを好きになってくれる女の子が現れる」

なんて言って。

そんな奴、現れるわけないだろ。
久志には、俺がいるのに。

だから、女の子に幻想を抱く久志の目を覚まさせてやった。

女の子は簡単に俺の頼みをきいてくれた。
嘘の告白。
傷つける言葉。


可哀想な久志。
泣いちゃった。
ごめんね。
でも、俺がいるから大丈夫だよ?





あとがき

独占欲…難しいっす。



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