ここ数ヶ月、俺は悩んでいることがある。
毎朝、俺は電車に乗って学校へ行く。
俺が乗ってから2つ目の駅で乗ってくる、県内随一の進学校の制服を着た俺より背の高い美形の男。
こいつが、俺の悩みだ。
最初は気のせいだと思った。
いつも俺の隣に立つのも、隣に立ってちょっとだけ肩が触れるのも。
肩が触れるので、少し離れるとまたひっついてくる。
車両を変えても、乗る時間を変えても、数日後にはまた俺の隣に立つこのイケメン。
正直、不気味だと思ったが、肩が触れるだけで何をしてくるでもないし、気にならないと言ったら嘘になるが、最近はなるべく気にしないようにしていた。
「今日から一ヶ月間、下請け会社に出向だから、ついでに車で送ってあげるわよ。」
ある朝、母さんがそう言ってくれた。
母さんの出向先は、俺の通う高校のすぐ近くにあるらしく、俺は母さんの申し出をありがたく受け取った。
つり革につかまって電車に揺られるより、うとうとしながら助手席に座ってるほうがいいに決まってる。
一ヶ月後、電車での通学を再開した朝。
電車を待つホームで、ふと思い出した。
そういえば、あのイケメンはどうしただろう。
なぜか俺にしつこく付きまとっていたイケメン。
久々に遭遇するかと思うと、それはそれで懐かしい気もした。
イケメンがいつも乗ってくる駅。
一ヶ月前と同様に、電車に乗ったイケメンは俺の隣に立った。
あ、やっぱいた。
俺がそう思っていると、今までにない出来事が起きた。
「ねぇ、どうして一ヶ月も俺をほっといたの?」
イケメンが、話しかけてきた。
話しかけられたことにも驚きだが、その内容にも驚いた。
ほっといた、ってどーゆーこと??
俺がポカンとなっていると、イケメンはさらに畳み掛けてきた。
「いつも一緒に通学してたのに、どうして何も言わないで一ヶ月も勝手にどっか行ってたの?
前みたいに、車両変えたり時間変えたりして俺の気持ちを試してるのかと思ったけど。
一ヶ月も姿を見せないなんて、酷すぎるよ!」
最初は小さな声で話していたが、段々と声高になるイケメン。
えーと、何だ、これ?
疑問は尽きないが、電車の中で大きな声を出すイケメンのせいで、周囲が俺らに注目し始めた。
そりゃそうだな。
「あの、ごめん…。」
俺は何にも悪くねぇ、と思いながら、とりあえず場を収拾するために謝ってみた。
「ねぇ、ホントに悪いと思ってる?」
いや、ちっとも。
とは言えず、首を縦にカクカクと振った。
「じゃあ、明日からもずーっと一緒に通学しようね?」
「………うん。」
なんだこれ?
俺、からかわれてんのかな?
「もうあと何日かしても会えなかったら、学校まで行こうと思ってたんだよ?」
あ、制服で学校バレバレなんだな。
つーか、来るな。
「そうだ、今日、俺の学校、短縮授業で早く終わるから迎えに行くよ。」
だから、来るなって。
とは、怖くて言えない。
「………うん。」
意味の分からない会話(と、いうかイケメンが一方的に話しかけてきたんだけど)をしているうちに、イケメンの降りる駅に着いた。
「じゃあ、また放課後。」
イケメンはそう言って降りていった。
俺は生まれて初めて放課後を待ち遠しく思わなかった。
あとがき
もっとほわほわした話になる予定だったんですが…。
全然ほわほわしてませんね…。
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