▼織田信忠



「ノッブ、ノッブ……ノビャッ!?」

「ノブノブ!」


 信忠の胡坐に乗ろうとよじ登っていたちびノブA。
 横からやってきたちびノブBが押しのけた。
 そこから始まる組んず解れつ。


「ノーブー!」げしげし!

「ノブノブ、ノッブ!」べしべし!


 膝の上で繰り広げられる、実の息子以上に親の面影が映るちびノブ達による争い。
 信忠は困ったように表情を崩してちびノブBの額を人差し指でつんと突いた。


「落ち着いてください、ちび父上。順番は守りましょう?」

「のぶぅ……」

「ノーノブブブ!」

「はいちび父上、どうぞ」


 しょんぼりと落ち込むちびノブBに対し、ちびノブAは勝ち誇りながらダイナマイツ寸胴の胸を張った。
 胡坐をかく信忠に乗るちびノブA。
 それを恨みがましい目で見つめているちびノブB。
 あの優越感に浸りまくったムカつく面に殴り込みに行きたいところだが、信忠がいる手前、それは出来ない。
 この野郎今に見てろ、後で顔面に山葵を塗りたくってやる……。
 そんな風に敗北感で打ちひしがれていたちびノブBの足が、急に地面と離れた。
 ノッブUFOではない自分が宙に浮く筈がない。
 驚いたちびノブBが慌てて手足をじたばたと動かすと、上から信忠の声がする。


「さ、ちび父上、どうか私の腕の中で我慢してくださいませ」

「……ノブ?」


 ちびノブBは信忠からかけられた言葉によって、彼の手で抱き上げられ、すっぽりと腕に納まり抱きしめられていることに気付いた。
 信忠の顔がすぐ傍にあり、彼の体温がよくよく感じられる。
 その時点で、ちびノブBの中でちびノブAは既にアウトオブ眼中であった。
 信忠の胸に抱きつくことしか興味が無かった。
 思うがまま頬を擦り付け、最大限の愛情表現をすることに夢中だった。
 一方のちびノブAも、ゴールテープを切ったかと思いきやまさかの直前追い越し逆転負け展開に衝撃を受け、頬を膨らませて信忠の腹を叩き最大限の抗議表現をすることで頭がいっぱいだった。


「………………」


 渦中の人である信忠だけが、機嫌の良い大きな笑顔で部屋の扉を開け、ちょこまかと動くちびノブ達が目に入った途端スンッと表情を失わせた人物に気付いていた。




「のぅ、わしの紛い物ども。誰の許可を得て、我が愛し子を取り合うておるのじゃ?」






 己から生まれた分霊のような存在であっても許せない。
 いやむしろ、己の潜在意識の具現化といってもいい存在だからか、許せない気持ちが一等だった。
 己が産んだ生涯只一つ、比類無き唯一の息子。
 信頼のおける術師が扱う魔の術を駆使した。
 身体に大きな痛手を受けてすら、ほんの僅かな可能性が生まれただけだった。
 それすらも超えて、受胎した。
 奇跡的な出来事だった。

 ああ、この子は。
 腹で眠っているこの子供は。
 血と、肉と、息を分け与えて育つ愛し子が。
 紛れもなく自分だけの。

 ――この子は、自分の物だ。

 いつか手元から離れていくのだとしても、今はきっと自分の物なのだ。
 そう、であるからして、これは正当な私刑。
 自分の物を掠め取ろうとする敵に対する当然の対処。
 是非もないのだ。


「うははははは! いいのういいのう、負け犬の遠吠えを聞きながら奇妙の膝枕を堪能するのは頗る気分がいいのう!」

「Noooー!! Noooー!!」

「Boooー!! Boooー!!」

「えっ今こやつら流暢な英語でブーイングしおったか!? わしでも片仮名止まりなのに!?」


 是非もないのかな?
 是非もないかも?
 是非もないの?


「あと一分で交代ですよ、父上」

「……是非もなくないから駄目」



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