▼藤丸立香



名前はついに第七特異点さえも修正を完了し、本体であるもアヴァロンの塔に再度腰を落ち着けた。
事態が終わりを迎えると私らしくもなく熱くなっていた頭も何時も通り平静さを取り戻している。
そして、途中から噛みしめていた想いと向き合った。


「名前、驚いてたなぁ!」


ファンだと告げた後の、名前の顔!それはまるでかつて魔術で悪戯をしかけた彼女の表情のよう――


「……」

「…………」

「………………」


なんとなく、違うかな?
彼女の驚きの顔を見ると、楽しかったけど。
でも名前の驚きの顔は、何というか……えっと……嬉しい?
すとんと腑に落ちた。
そうか。私は名前が私の行動や話すことに反応を示してくれるのがどうしようもなく嬉しいんだ。
でも、この「嬉しい」は彼女ととある少年が奇跡を起こした時に感じた「嬉しい」とはまた違う。
何なんだ、いったいこれは。


「……」


思考を放棄し、今までしてきたようにカルデアに戻った名前を観る。
七つの特異点を修正した結果、ソロモンがいる場所にカルデアが存在する場所が引き寄せられるようになったようだ。
ついに最終決戦が始まるのだと実感する。
指先が壊死するほどまで頑張った立香に言い渡された休息はとても短い。
だが、それも仕方ないのことだ。
この残された時間を有効活用して少しでも体調を整えるんだよ、名前。
……ついに観ることができる物語の最終章に想いを膨らませると同時に、名前の様子を気にしている私がちょっとでも存在している事を自覚した。
確かに、私にとって関心がない人間の中でも唯一興味を抱く対象が名前だ。
しかしそれも旅人として、の筈。
藤丸名前という人類最後のマスターが、今この瞬間眠るように死んでしまったら大変だから気にしているんだろう?
私は名前のファンなのだから作品がそんな形で未完となるのが耐え難い。
だから観守る。
そう。でないと、まるで私が人間のように名前の事を想って――


「……う、わぁ」


点と点が線で繋がる感覚が身を貫いた。


「ふ、ふふふふふ」


うん。なるほど。
笑いが止まらないというのはまさにこのことだね?


「名前」


一度、あの子の名前を出すと。まるでダムが破壊したかのようにどんどん口から零れ出る。


「名前――名前、名前、名前、名前、名前!」


段々と声が大きくなり、あの子の名前以外何も口にできなくなる。
塔の中に木霊する私が口にしたあの子の名前が耳に入ると「愛おしく感じる」。
まさか、この私が随分とまともな感情を生み出す事になるだなんて思わなかった。


「名前」


名前を呼ぶ度、あの子への気持ちが膨れ上がっていくのが分かる。
場の流れとはいえあの子の手と繋いだ自らの手が今更ながら熱を持つ。


「……名前」


先程別れたばかりだというのに、私はあの子に会いたくてたまらない。
もう一度、あの子に。
一度?
違う、二度、三度、四度――もっとあの子と、名前と話がしたい。一緒にいたい。


「名前、」


寂しいよ、名前。





夢魔を人間にしてしまった、神も鬼も人も混血も関係なく縁を紡ぐことができてしまうキミが悪いんだから。

王の話と同じくらい君の話を語りたいんだ。

うん、だから――――――僕はキミに逢いにいこう。






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