▼偽フランシーヌ人形



太陽の光を受けたあの人の髪がきらきらと反射し、光り輝いている。
たかがそれだけと切って捨てるにもあの人は綺麗すぎたし、オレは魅入られすぎていた。
あの人が木陰に入る。わ、と思わず声をあげた。反射がなくなればきらきらは無くなるかと思ったがそれはとんだ思い違いだったようである。

――あの人は光と影の狭間に入り込んだ途端、ぞっとするほどその存在感が増すのだということを今、初めて知った。


「そちらは暑いでしょう、日陰ならば幾分か和らぎますよ。熱中症にならないよう気を付けて」


そう言われて、そういえば今は夏である事を思い出した。言われてみれば暑い、気がする。汗もかいている気がする。喉も、とても乾いている気がする。セミの音がうるさいような気がする。ああ暑い、乾いた、うるさい、暑い、暑い、うるさい、喉が渇いたなァ、セミがうるさいなァ……


「さあ、こちらへ」


あっちは随分と涼しそうだ。だってあの人は一欠片分の汗もかいていない。こんなにも暑い日に長い服に長いスカート、しんどくないのだろうか。オレだったら十秒も耐えられない。暑い。水が飲みたい。うるさい。暑いから、しょうがない。日陰ならきっと涼しい、今よりもマシだ。あの人はあんなにもしれっとした顔をしている。それはここよりもあそこの方が涼しいからだ。だから、オレはあっちに行ってもいい。

(……ハンカチ?)

ハンカチの上に座っているあの人を見て内心首を傾げる。なんだってハンカチ……ああいや、そうか、汚れるからか。土埃が嫌なのか。天女は流石、いやこの人は外国の女ってだけだったか。地面に座り込むのを嫌がる都会の方でもこんな事をする奴はいなかったのに。


「飲み水ですよ、どうぞ」

「ありがと……」


あの人の声が聞き取り辛い。セミがうるさい。さっきよりもずっとうるさくなった。水筒のコップを受け取り、胃に流し込む。……ちょっとだけスッキリした気がする。


「何をしているのですか?」

「え?」

「休憩なのですから座った方が良いでしょう、ほら」

「あ、ああ」


あの人がハンカチを広げて、ってでけぇなそれ、むしろ手ぬぐいなんじゃ、まさかこんな刺繍が入りまくった上品そうなそれが手ぬぐいとは思えないが、んんん、違う、この人に驚く必要はない、そうだ、だって外国の奴だからな、常識も考え方も何もかも違うだろう、どんな持ち物を持ってても何をしてもどんと受け止めるべき。なんとなく、外国人だからというよりこの人だから、のが合っている気がするけども。


「立ちながら休むタイプだというのなら仕方がありませんが」

「……ちがう」

「そうですか」


クソッタレ。座れと?その手ぬぐいの上に。座れってことだろうな、態々広げたんだから。来いと言われたならしょうがない、座るさ。当然だ。――ああ、うるさい、うるさいなァ、本当に音がうるさい。この人は馬鹿うるさい音が気にならないのか。こんなにも近いのに、近い、そ、う、セミが近いのに。こんなにバクバクうるさいなんてセミって奴はさっさと消えてしまえばいい。近い、ほんとに近い。うるさいなァ、それに暑い、すっげぇ暑いしうるさい。バクバクドクドクうるさい。


「坊や、よかったらこの冷えたタオルを使ってください。そんなに顔を赤くして、」

「赤くない!!!」


暑いのもうるさいのも夏の所為だ。



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