▼サイタマ

デフォルト:ディーン

※「没と放置とゴミ」に置いてある小説(これ)から。


気が付いたら、目の前に怪人がいた。


「ナマエ!」


気が付いたら、目の前にサイタマがいた。
気が付いたら、怪人はどこにもいなくなっていた。


「大丈夫か?怪我は?悪い、怖い思いさせたな」

「お、おう、大丈夫」


始めてサイタマの怪人退治を見た。ごしごしと目元を擦って、サイタマの近くにある血の池を見下ろす。さっきまでは無かった筈。
……サイタマ、強いんだなぁ。男として負けた気分だ。
心配そうに俺を見るサイタマの肩を叩き、スーパーの袋を掲げる。


「サンキュ、流石ヒーローだな!御礼に今日はご馳走してやるよ」

「俺がしたいからやってるだけだぞ」

「クーッ、ヒーロー様は言う事が違いますねぇ?惚れちゃいそう!」




「本当か?」


熱が籠った目と視線がかち合う。


「……や、冗談だよな。すまん」


あの目に返す言葉が見つからなかった。俺の手を解いてサイタマは先を歩いていく。
陽に反射して光る後頭部を見つめ、俺はどうしようか悩んだ。
正直な所俺はサイタマになら掘られても良いと思ってる。さっきの怪人退治で実感した。あれはやばい。力イズパワー、力こそ男。マジでサイタマは良い奴。
……いや、悩んでる暇があったらさっさと言うべきか。
よし伝えよう、と口を開きかける。


「最近、怪人が出る頻度が上がってるよな」

「え?あ……そうだな?」


出鼻を挫かれた。一先ず頷く。


「ナマエには、絶対に傷一つ負わせねえから……俺とずっと一緒にいてくれないか」


幾度か目を瞬かせる。
不安気な顔をするサイタマが、始めて会った時の、俯いて泣きそうにしてるガキの頃のサイタマに見えた。
そうか。なるほど、これは、あの日の続きなのだろう。


「ああ、ずっと一緒だ」


サイタマにとっては続きですらないのかもしれない。
あの日から時間が止まっているのかもしれない。
いつまでもいつまでも、黄昏時の公園で泣くのを堪えていたのかもしれない。


「……ほんと?」

「ほんとで、ずっとだよ」


「おれ、ずっと、ナマエと」


「そ、うか」


正直な所俺は何故あの時、不気味で気味が悪いと近所でも噂だった男の子に話しかけたのか、自分でも理由が分からなかった。
でも今は。


「好きだよ、サイタマ」


目尻に涙を浮かべるサイタマを抱きしめる。
彼を放っておけなかったからなのだろうと、理由の一端を理解できた。



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