一年の新入部員が最初のテストで一軍入りを果たしたのは、帝光男バス史上初だ。
まさか一発でこっちに入ってくる者が現れるとは、俺達どころか査定する側のコーチ陣もざわついていた。
三年の風当たりがキツいなこりゃ。予想ではない、事実だ。去年の三年二年は実際、夏季のテストで一軍入りした俺への当たりが強かった。
実力主義思想が強い帝光だからそれも直ぐ和らいだ……いやいやはははヤンチャしてた俺が先輩等を総当りでなぎ倒したなんてまさかそんなはははは。
実力がありゃ認められる、認めさせるまではまあ頑張れや、と軽い気持ちでいたのだが……
「あー、えー……と」
「赤司征十郎です」
「赤司、赤司な。今日からお前の教育係を担当する二年の虹村名無だ」
「副主将自らご指導して頂けるとは恐悦至極です、宜しくお願いします」
「おう……」
体育会系にあるまじき丁寧な言葉遣いだな、おい。
後ろ首に手を当てながら、俺が受け持った入学当初から有名なあの赤司征十郎を見下ろす。
……絶対自分が関わりたくなかっただけだろ、三年ども。
何がお前になら任せられるだボケ。
一年の中で一番教えづらい奴をそれらしく言葉は取り繕いながら押し付けてきた三年のムカつく連中の顔を一人ずつ思い返し、後でボコボコにしてやろうと決めた。
唯一主将だけは表立って気を回してくれたが、いい。たらい回しにする気はない。結局誰かがやらなきゃいけねえんだ、教育係自体は構いやしない。
どんなに高慢な野郎でもきっちり先輩後輩の区別は叩き込もう、と意気込みながら対面したものの、赤司の物腰は思いの外柔らかい。
頭が高いぞとか言われるかもなってちょっと考えてた俺が馬鹿みたいじゃねーか。
「一年だろうが一軍に入った以上はバスケ部の看板を一番前で背負って立つんだ。百戦百勝、負けは恥……覚悟は良いな?」
「はい!」
貧乏くじをひかされたと思っていたが……。
「――良い返事だ。うし、来い赤司。まずはアップからだ」
揺るがない赤目が特に気に入った。
イイじゃん、こいつ。
「青峰が走り込みの途中で消えて戻ってこねぇ!どこ行きやがったあいつ!!」
「おい紫原何回言ったら分かんだ菓子食うなボロボロ零すなー!!」
「なんだよ、このバカでけぇ着ぐるみは?緑間、説明しろ!!」
「珍しい青色のザリガニをみつけたんで捕まえてました!」
「腹減ってんだからしょーがないじゃん、うっさいなぁ」
「おは朝という朝番組で言われた今日のオレのラッキーアイテムです、コーチから端になら置いても良いと許可を得ています」
「…………」
「虹村さん、以前渡された海外遠征の同意書が一年全員分集まりました。保護者サイン欄も全て確認済みです」
「おう、たしかに。助かるぜ赤司」
「このくらいお安い御用です。他に何か手伝えることはありますか?」
「んー……今の所はねぇかな」
「そうですか……」
「……なんつーかさ、お前って」
「?はい」
「一番普通だよな、こんなかでよ」
「!……そうですか」
(赤司の教育係になって良かったわ、マジで)
(あの人の目からはオレが普通に見えるのか……生まれて初めて言われたな)
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