成り代わり | ナノ


あれから眼鏡だけじゃなく万事屋一家がちょくちょく顔を見せてくれるようになった。どうやら私の目は正常だったようだ。
あの人たちの声めっちゃくちゃ大きいから来てたら直ぐ分かる。でもあの人たちが来るイコール騒動が起こってやばいことになる、の図だから最初は正直嫌だった。嬉しいけどさ。
しかし、どうやらあの人たちは本気で私を応援してくれているようである。
野次馬ならファッキューだけどファンなら無下には出来ない。たまにギャーギャー騒ぐけど事件に発展したりはしないし、これくらいは笑顔で飲み込もう。

と思った矢先の恋愛スキャンダル発覚。

ただのツーショット写真がそれっぽく偽造されて新聞のトップに載り、誤解だということを証明出来たのは私の人気が落ちるに落ちた後だった。
相手はGOEMONという反侍のリーダーだったんだけど……なんとなく既視感。これもお話の一つだったのかもしれない。
お母ちゃんがクレーム電話やテレビ局の人を相手にしてくれて、私を守ってくれた。
それと、多分だけど万事屋一家もこの事件解決に乗ってくれたんだと思う。誤解だってことが新聞に載った日、お母ちゃんが私に何も言わず隠れてどこかにこそこそ出かけたからこっそり後をついていったら行き先がスナックお登勢の二階だったのだ。お父ちゃんがお母ちゃんに万事屋一家を頼るよう話したのかもしれない。

偽造が発覚したらファンは戻ってきてくれたのだが、数は以前とは比べものにならない。
芸能界から半ば干されているので華々しいゴールデンタイムの出演チャンスも無いし。
化粧をしていてもまだ顔色が悪いお母ちゃんはちょっとばかり休んでもらって、自分から色々なイベントに売り込みに行った。落ち目の寺門通でも出演オーケーな場所は大抵イロモノ系だったが、私としては歌が歌えればそれでいい。そして今は歌を歌う為の場所を築く土台作りの時間だ。

久し振りにストリートミュージシャン時代のように路上で歌ったり、老人会のゲスト参加したり、寺子屋に突撃して歌ったり、デパートの屋上イベントで歌ったり。
うっかり間違って女傑選手権大会に参加したりもしたっけ。腐っても銀魂の女子キャラだからか、結構力強いんだよね私。やるからには全力なので優勝は掻っ攫いました。
大会で頭から血を流してもついてきてくれるファンの存在が嬉しくて嬉しくて、もっと頑張ろうと営業を続けていたら、とある音楽プロデューサーが私を拾ってくれた。努力ってやっぱり見てくれる人は見てくれてるんだね。

という風に、色々あった。
芸能人は人気が出てお茶の間を沸かし、消費社会ですぐ飽きられてテレビから消え、そこから這い上がるまでがワンセット。もう一度テレビに出られるようになったから、今度は早々消えやしない。経歴に泥がついてるって結構大事。親しみやすさと根性がプラスされるから。しかも私は被害者属性付きでお得セット。


「これこれこういうわけで、是非不死鳥の如く蘇ったお通殿に真選組の一日局長をお願いしたい!」


とある日、真選組局長近藤勲が文字通りずっと頭を下げながら直接やってきて依頼を持ちこんだ。頭を下げながら部屋に入ってきたし、理由を説明してる時も下げたままだし、今もずっと下げたままだ。ゴリラにとってはこれが最上級の礼儀なのだろうか。
ちら、と後ろに控えるお母ちゃんに視線を送る。難しい顔をしていた。
返事は後日ということで一旦局長には帰ってもらい、お母ちゃんと向き直る。


「名無。一日だけとはいえ、あの真選組の局長よ。テロリストに名が覚えられる可能性があるし危険だわ。その日は真選組の方に守られるにしても、今後の芸能活動に支障が出るかもしれない。貴女の意思を尊重するつもりだけれど……」

「やるよ。だってあの人、目が真剣だったから。この仕事やらせてよ、お母ちゃん」


営業スマイルを向けるとデレデレした。でも仕事の話になって世間のイメージについてや部下の名前があがると、さっきまでの残念臭のするストーカーゴリラの姿が消えた。いや、ゴリラはあったな。
まあそれはともかく、誠意をもって仕事に勤める人に見込まれて依頼を持ちかけられるのはどの世界でもやる気が湧いてくるという話だ。
テロリストに狙われると分かっていても。そんなのは関係ない。


「……ふう、分かったわ、しょうがないわね」

「ありがと!頑張るね!」

「ただし!当日はボディガードをつかせるわよ。ちゃらんぽらんだけど腕っぷしは確かな何でも屋が知り合いにいるの、その人を雇うわ」

「うん。……うん?」


なるほど、そう繋がるのか。






雇うついでに、万事屋一家には私が知っているお話の通り真選組マスコットとして動いてもらうことにした。マスコットって重要だと思う。
真選組側には事前に万事屋一家を雇用していることを報告しているので、誤認逮捕は無い筈だ。
私専用の真選組隊服を着て、幼い頃から振り回していた薙刀を背負い準備完了。


「お通ちゃん、このパレードが終わったら休憩に入るけど茶屋に入らないか?良いお店があるんだっふんだー」

「あ、今のでだっふんだー2回言ったよね、次言ったら切腹だからくだのコブ〜」

「あっお通ちゃんもそれ2回言ったぞーさんの鼻」

「えーじゃあ今のナシ〜。内緒ね、二人だけの秘密ねずみの尻尾」


「てめェェェェェェェェェェェ!!何お通ちゃんといちゃついてんだァ!!」

「おう一日ヒラ隊員ゴリラ、お通ちゃんと馴れ馴れしく喋ってんじゃねえ殺すぞーさんの耳」

「良い気になんなヨ、その笑顔ただの仕事用の笑顔だからな、プロだからどんな相手でも笑顔でいるだけだからナポリタン」


「ぎゃあああああ!!まこっちゃんがァァァァ!まこっちゃんたちが反乱を起こしたァァ!!」

「そーいや寺門さんが局長やってるし、今日の近藤さんの役職ってなんですか?旦那の言う通りヒラですかィ土方死ねコノヤロー?」

「止めてやれ、ヒラ以外の何物でもねーかラッコに貝の代わりで頭割られろ沖田」


平和そのものだ。
――なんて思ったのが悪かったのだろう。完全にフラグだった。
一日ヒラ隊士が勧める茶屋で喉を潤わせ、宣伝カーを使って再び一曲歌おうとしたら、実力行使に出たテロリストが襲撃してきた。狙いは当然私だ。
イメージアップ戦略の一つとして武装解除して刀を外させていたので、人数が多くてもいけると思ったんだろう。懐にスタンガンや短刀を忍ばせているとも知らず。
真選組は対テロリスト警察だよ?得物の一つも持ってないのは不味いでしょ?市民にバレなきゃいーのよ、バレなきゃ。


「お通ちゃん危ない!!」


勾引そうとするテロリストから私を庇って、眼鏡が前に躍り出た。


「お通ちゃんのお母様から頼まれたんだ!絶対に傷一つ付けさせない!!」


身を挺して守ろうとする眼鏡を見上げ、そっと後ろに手を回す。


「さあ来いテロリストめェェェ!この僕、志村新八が――――」

「グハァッ!!」

「相手――って……あ、あれェー……?」


眼鏡が冷や汗を掻いて顔を引き攣らせながらゆっくりと振り返り、私と目があった。
テロリストの喉元を突いた薙刀を引き、身構えつつにっこり笑う。
何時の間にか私を中心に周辺から音が一切消えていた。
眼鏡と同じような顔で私を見つめる真選組たちとついでにテロリストに向かって目を細め、一日局長として命令を放つ。


「宣伝カーに人数分の武器を置いているので近くにいる隊士は回収と頒布を。
 市民の安全と笑顔を第一に、テロリスト共め神妙にお縄につけ!真選組一日局長 寺門通、推して参る!」


小さい頃から護身として薙刀術を習っていたので、足は引っ張らないだろう。


「アイドルとして一日局長として、私のファンに手出しはさせない。歯ァ食いしばれ下郎」


なのでこれは決して暴力沙汰ではない。良いね?

だというのに翌日の新聞には薙刀を振り回してる私が一面に載ってしまった。真選組が天狗党を壊滅させたことはもののついで扱いだ。
どうしよう、依頼達成できてないじゃん。真選組なにも変わってないじゃん。ごめんなさい話題掻っ攫っちゃって。
いや、鋭い目つきが格好いいだとか、悪に屈しない戦う女の子なんてリアルプリキュアじゃんだとか、見下す目線がたまらないだとか、女子層とマゾ層を筆頭に今までになかった人たちを新規開拓出来たのは良いんだけども……


「L・O・V・E・お・つ・う!!」

「L・O・V・E・お・つ・う!!!」

「L・O・V・E・お・つ・う!!!!」


あれからドS男とか地味男とかオレンジ色のアフロとか、見たことある人がライブに出没するようになりました。
……うん、よくわからないけどとりあえず、応援しに来てくれた人には後悔させない最高の時間を提供するよー!



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