成り代わり | ナノ


ぷよ勝負の目前に突き付けられた真珠の装身具。
多少の魔導力は込められているようだが、所詮ただの装身具。であることは明白だというのに、これを見るとかつての記憶が蘇ってくる。


「私に本に閉じ込められる前の事を思い出せというのか!?」


封印されていた長い長い年月の間も、常に心の傍に在った者の姿。
彼の人がまるで今、己の前に立っているかのような錯覚すら覚える。


  『こんにちは、マモノさん』


鮮黄色の髪はいつも柔らかで、風が吹くとふわりと靡いていた。


  『今日も本の虫なのですね、マモノさんは』


薄緑色の瞳はいつも優しげで、どんな物をも許容し受け入れていた。


  『明日は満月なんです、もしよければご一緒に散歩をしませんか?』


いつのまにか、私は彼女に惹かれていた。
いつからかは分からない。もしかすると一目見た時からかもしれなかった。どちらにせよ、私が愚かであったことに違いは無い。


  『マモノさん――私、貴方のことが――――』


ああ、待て、待つのだ女神よ、貴女がそのようなことを言ってはまたアルカの民から――
――すまない。このような事は、初めてだから……どうすればいいか、どういえば良いかが分からないのだ。
なに、素直に言葉にすれば大丈夫……?それだけで嬉しい?そう、か。


(女神、私は貴女のことを、こ、好ましく、思って……いるぞ)


滞りなく伝えられた自信は一つもない。
極度に声が大きくなってしまったり小さくなってしまったりを繰り返し、吃音によって正しい発音とは程遠くなってしまった。
……彼の人と話す時だけ、己の身体に変化が起こるのだ。
私の声はそれはもう聞き取り辛かったろうに、それでも女神は笑みを浮かべた。
その笑みは、これまで見てきた中でも一番に柔らかく、一番に優しく、一番に、美しかった。
女神の微笑に釘付けになっていた私を置いて、女神は私との距離を一歩、また一歩と縮め、気付いた時には眼前にやってきていた。
そうして、私は心の隅から隅までが、私の中に存在する全てを、その根っこに至っても、女神に奪われたのである。


  『ふふ、私やっぱり、マモノさんのことが好きみたいです』


ああ、やはり私も、どれほどの時を隔てようと、貴女のことを好ましく思っている。



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