成り代わり | ナノ


「ナナシ、いい加減に大手柄をあげろ」

「軽々しく何言ってんの?」


馬鹿にしたような物言いで、事実馬鹿にしながら、不機嫌そうにおれを見下ろす実父を鼻で笑った。

おれの父であるスパンダインは権威欲の塊で、先程の発言にもある通り手柄を好む。糞ったれな性格だが口先だけではなく上の連中に良い顔が出来る任務を探し当てる嗅覚が優れており、世界政府の中でもかなりの立場に位置している。
権威をたんまりと担ぎ込んだ父はそれだけに飽き足らず、息子であるおれにも出世街道を工事し、高い権力を手に入れさせようと画策しているのだ。
父が敷いた道を進んでいけばとんとん拍子で上にあがれたので、有り難くは思っている。金も権力も、おれだって嫌いじゃない。むしろ好きだ。だが、おれはもうCP5の主管。既にある程度の金と権力は握ったわけで、これ以上頑張る必要はないのでは?と思っていたところでこれである。
過ぎたるは猶及ばざるが如しという言葉を知らないのだろうか。
あと面倒臭いことはやりたくない。
父を見つめると、父はそんなおれに呆れながら溜息を吐いた。そして、口角をあげてにやりと笑う。……これは、今まで生きてきた中で数回ほど見かけたことがある。


「なあに安心しろ、おれの言う通りにやれば大丈夫だ。今回はとっておきのヤマを張ってあるんだぜ」

「はあ」

「なんと、古代兵器プルトンの設計図を隠し持っている人物を突き止めた!!魚人の癖にいけしゃあしゃあと陸上で暮らしている船大工でな、ちょちょいと裏工作でハメてやって身柄を拘束すりゃいける!!そうすりゃナナシの名声は鰻登り、地位は盤石、CP9長官の座を息子に譲りおれはもっと上に行く!!」

「はあ……」

「…………おれの息子はどうしてこんな性格に育っちまったんだ……」


「昔はもっと可愛かったのに!」と地団太を踏む父。ダンダンと喧しいところに水を差してもらうと、昔と今、おれが変わったのは見た目だけだと断言しよう。
ある程度の地位に就くまでの間は努力を怠らなかっただけで、入手してしまいさえすればこの通りである。
父が持ってきた高級羊羹の包装をべりっと剥がし丸ごとむしゃむしゃ食べていると、癇癪の渦から戻ってきた父に指差された。


「とーにかく!この計画書に従って動け!!行き先は"ウォーターセブン"、既に五老星は説得してある!船と人員は手配済みだ!直ぐに行ってこい!!」

「ふへえい」


もしゃもしゃごっくん。やる気のない返事をしながら羊羹を飲み込み、計画書を受け取った。
非常に面倒だが、あの父が言うのだからこれが成功すれば本当に大手柄なのだろう。舌打ちをしながら紙を読む。全体の段取り。設計図所有者、コンゴウフグの魚人トムに関する情報。書かれていることはこの二つが大半だ。
億劫にぱらぱらと頁を捲ると、人物プロフィールの欄に張り付けられている二枚の写真が目に留まる。
トムの一番弟子と二番弟子、その二人の写真。


「――へえ、」


方や、男前な顔立ちの顎鬚を蓄えた男。方や、綺麗に引き締まった六つの腹筋を持つ男。
どちらも大工として働いているだけあって腕回りや足腰の筋肉がきゅっと振り絞られていて、両者共に男に欲情されるだなんて夢にも思っていないであろう、雄の性が剥き出しの顔をしていた。
思わず、無意識の内に舌で唇を舐める。

(いい獲物を見つけた)

どうでもよかった計画とやらに一気にやる気が湧き出てくるのを感じた。
優しくしてやろうか、それとも乱暴にしてやろうか、脳内で様々なシチュエーションが描かれていく。常々思っている、リセットして色んなパターンを味わいたいと。だが現実は非情だ、初めては一回しかない。
こっちの男は優しく貫いてやったらどういう反応をするだろう?あっちの男を無理やり襲ってやったらどういう反応をするだろう?
よし、一刻も早くウォーターセブンへ向かおうではないか!!

欲塗れのやる気が溢れだしたおれの姿をドン引きしながら遠巻きにしている父に、「アンタの部下のラスキーさん、とっても美味しかったよ」なんて言ったら、どういうリアクションをしてくれるかな。そんな可愛い悪戯心が生まれたが、可哀想だろうか。または「父さんも許容範囲内だよ」はどうだろう、とても良い案だ。



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