成り代わり | ナノ


「ほぉうおおおおおおうふ!!?」


また始まったよ……
本日三度目の奇声と変顔を披露してくれた記憶さんは息荒くブツブツなんか言い始めた。
それを呆れた目で見ながら軽量化を図っていた武器を置き、記憶さんの背中をさすって宥める。
今日は何時もより奇行が多い。


「はいはい、今度はどうしました」

「大変だB細胞……!今度こそ俺は予知能力を身に付けたに違いない!!」

「へーそりゃあ凄いっスねーどんなのを見たんですかー」

「ああ……じ、実はな」


テンションが上がっているからか紅潮した顔で記憶さんは小さく「君がキスして頭を撫でてくれる未来が見えた」、と言ってきた。
……うん?
なんだって?
一瞬何言ってんだコイツ、と素で引いたが、ドキドキしながら俺の反応を窺っている記憶さんを見て思わず笑ってしまう。


「ほ、本当だぞ!本当に見えたんだ、ただ今日じゃなくて明日かもしれないし明後日かもしれないし明々後日かもしれないが!」


ガンッとショックを受けて捲し立てる記憶さん。ぴくぴくと勝手に動く口を隠すために掌で口元を覆う。
ほんと、頭は良いのに阿呆だなこの人は。
さっきの二回の奇行はもしかすると、今の台詞を言おうとして失敗しただけなのかも。
もう本当に、記憶さんという人は!


「やってほしいならちゃんと言ってくれないと分かんないですよー!」

「わぎゃっ!!」


がばりと腕を開き、一気に記憶さんを抱きしめる。首の後ろに腕を回して頭を撫でながら距離の近くなった記憶さんのほっぺに勢い任せのキスをした。


「記憶さん、どうです?……これで満足ですか?」


はくはくと金魚のように口をはくつかせた記憶さんは、たっぷりの間をおいて羞恥にまみれた顔で弱く横に振る。


「足りないから……もっと、欲しい」

「……もう〜〜〜〜〜!!そういう!とこ!が!ほんとーに!!」


湧きあがる衝動に堪えきれず、記憶さんを抱きしめる力を強めて首筋に鼻をうずめる。
すると、何やら記憶さんの身体がぷるぷると震え始める。暫く経っても収まらないのでどうしたのかと顔をあげると、記憶さんの顔色が可哀想なくらい青く染まっていた。
動揺しきった記憶さんと目が合う。途端、堰を切ったように言葉の羅列が飛び出してきた。


「嫌いかもしや俺のことついに愛想をつかしたのか俺面倒臭いか面倒臭いのか周りの奴らからよく面倒な奴だって言われるしそうなんだろうなどうしよう俺B細胞に嫌われたらもう生きていけないお前にとって不要ならネクローシスしてしまうあああああああああぅああああどうしよう、ごめ、ごめんB細胞、面倒臭いところ直すから嫌いにならないで俺から離れないでくれずっと俺を好きでいてくれ、なあB細胞、B細胞、B、」

(アッこれアカンパターンの奴だ)
「言葉が足らずすみませんでした大好きです記憶細胞さん」


マジモンの面倒臭いモードに入った記憶さんに、スンッ……と遠い目で現実逃避をしてしまったが直ぐに我に返って慰めに入る。
たまにこうなるから俺の恋人は困り者だ。
でも、この症状だって記憶さんが俺の事が大好きだから起こるのであって、正直あんまり悪い気はしない。
確かに面倒臭いけど、俺も記憶さんのことが愛しているから良いのだ。
もし愛が無かったら?……重さに負けて死んでただろう。それくらいの重量である。


「本当か」


声が死んでる。目にハイライトがない。なんかめっちゃヤンデレっぽーい、こわーい。ふええB細胞くん泣いちゃいそうだよう。
重圧のかかった場の空気に心の中だけでも明るく軽い雰囲気を保つ。


「はい、本当です、大好きですよ!」

「……よかった」


ふにゃりと力の抜けた笑みを浮かべた記憶さん。ほっと一安心し、強張っていた身体を深呼吸と共に休ませる。
あー、怖い、可愛いけど怖い、なんでこんなに重いんだろ記憶さんは。






(もう、失いたくない)

何度も何度も繰り返して君を迎え入れる。ちょっと顔や声が変化したところでなんの問題もない、君は君なんだから。
失敗、また失敗、失敗する度に君を失いまた新しい君が来る。
ああ何時になったら君は記憶細胞になってずっと俺の傍にいてくれるのだろう。もう数字を数えるのが億劫になるほど繰り返した。でも、諦めずに続けてたらいつか叶うよな。諦めるのが本当の終わりなんだ。一番初めの君がそう言ってた。

(今度こそ上手くいく、今度こそできる)

ずっと一緒にいような。
愛してる、B細胞。



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