成り代わり | ナノ


「マーモンの代理か」


ベルフェゴールによって連れ去られ、強制的に着いた和室で随分と日本を楽しんでいる様子のXANXUSが見えた。
着物に日本酒、猪口、御座……見慣れぬ意外性が彼の心を捉えたのだろうか。どちらにせよ、すました顔をしながら謳歌するとは可愛い奴だ。


「思った通りだったな」

「大丈夫か名無!」

「ああ、問題ない」


後からやってきたリボーンとディーノを一瞥し、XANXUSを見遣る。
最後にXANXUSを見たのは10年の時を経た未来の姿である為、若々しく見えた。矢張り10年の歳月は重い。未来の彼はあれでもかなり落ち着いた方だ。
ちょっとした新鮮さを持って眺めていると、XANXUSは私を睨みつける。


「このドカスが……何を考えてやがる?」

「大したことじゃないさ、XANXUS」


本当に大したことじゃない。数週間前の私ならば大したことであったが、今の私にとっては何ら大したことではないのだ。
返答がお気に召さないのか鋭さが増す。迫力満点だ。
困った顔で見つめ返していると頭上に気配が現れ、血の気の多いXANXUSがいの一番に発砲した。
するとチェッカー柄の帽子を被り、そして同じチェッカー柄の手袋でこれまた同じチェッカー柄のアタッシュケースを持った、黒服を纏った男が割れた硝子の上に落ちてくる。


「ハハッ、やっぱここかあ」

「何者だぁ!!」

「フフフフッ、結果オーライヒヒヒヒッ。うっかりみなさんの部屋の番号を忘れてしまって、へへ、外から覗いて探していたんですフフ」


荒っぽい乱入をした、というよりかはXANXUSのせいでせざるをえなかった男は尾道と名乗り、虹の代理戦争のルール説明をしにやってきたと言う。
アルコバレーノ達が尾道の上司について反応し、ヴァリアーの面々が尾道の特徴的な性格に一通りの突っ込みをいれた所で、そろそろ頃合いかと足を一歩踏み出す。
リボーンから下手に動くなと牽制の視線を送られるが、これは君の為でもあるから今は大人しくしていてほしい。


「尾道、話に入る前に一つ良いかな」

「おやなんでしょ、おっ?」


服は黒いから無理か。定番の手と腕は既に使用済み。ワイシャツが無難?と服装チェックをしていると、手に持った帽子の存在に気付く。
借りるぞと一言かけ、取り出したペンで文章を記しつつ尾道に話しかける。


「一言で良い、上司に言伝を頼む。この帽子にも同じ物を書いておくが、内容はこうだ。"準備は整った"、とだけ」

「準備は整った?」

「そう。伝えてくれるだけで良い」

「待て名無、お前はどこまで知ってるんだ」

「知ってる事を知ってるだけさ」


小さくて丸い目でぱちぱちと瞬きをしている尾道に帽子を返す私に追及するリボーン。
流石に聞いてくるよなあ。でも安心してくれ、誓って悪いようにはしないから。それとも私達の関係はこれぐらいで揺らぐようなものか?そういった意図を込め、振り返って微笑む。
そうすれば彼はぐっと言いたい事を堪えてくれた。


「ありがとう、先生」

「……時が来たらちゃんと説明すんだろーな?」

「ああ、それもそう遠くはない」

「ちょ、ちょっと!リボーン、馬鹿じゃないの?!なんで止めるのさ、聞けよもっと!こいつ明らかに訳知りだろう!」

「しょーがねーよ、話したがらねーんだもん」

「今は話すべきタイミングじゃないんだもん」

「良い男は女に無理強いさせねーもんだもん」

「流石先生は格好良いレベルが違うんだもん」

「なー」

「ねー」

「あああああ呪いがかかってる重大なこの時にふざけるなぁぁああ!!」


お互いに頷いて笑いあっているとキレられた。相手はアルコバレーノの中でも一番元の姿に戻りたがっているマーモンだから仕方がない。
話すべきタイミングじゃないんだから仕方がないんだもん。
とお茶目さを装っているが、本当に話すべきではない。説明の二度手間は効率的ではないし、何よりチェッカーフェイスがどう出るかよく分からない。上手くいく保証がないということは、アルコバレーノ達を安心させられる保証がないということだ。


「ああ、そうでした!『沢田名無さんから問題ないといった声をかけられた場合にのみ限り、虹の代理戦争は中止とする』でしたね!」


先程から尾道がごそごそと手首を確認していたが、顔をあげた途端に中止宣告が下される。
私を含めた一同は目を丸くさせた。


「はあ!?」

「何だと!!」

「そ、それは本当かい!?」

「はい!ここのカンペにばっちりと!」

「見せて!!な、な、な……書いてある、何故!?」


マーモンが尾道のカンペを読み信じられないと声をあげ、一気に注目が私に集まる。いや、元から視線は集まっていたが。
一等強く見つめてくるのはマーモン。これは当然としてもう一人、XANXUS。穴が開きそうなほど力強い。


「各アルコバレーノとその代理人に伝えろとのお達しで!はい!では、私は帰らせていただきます」

「お゛い待てぇ!説明が不足しすぎてんだろぉがぁ!!」

「え?代理戦争は中止ですがその上でルール説明を聞きたいのですか?稀有な方ですね。畏まりました、ではまず」

「そーじゃねぇ馬鹿かテメェは!!」

「え?え?どういうことです?」


去ろうとする尾道の胸倉を掴み、ぐわんぐわんと揺するスクアーロ。尾道の態度が癪に障るらしく荒れている。相性がそもそも良くないのだろう。
マーモンも先程から甲高い声で説明を求めてくるし、これは……放置する方が効率が悪いか。
一つ頷いてから尾道を背にして二人の間に割って入る。


「この場にいる人には最低限私から話をしよう。尾道は帰って良い。他のアルコバレーノの元へ行くんだろう?」

「う゛ぉっテメッ沢田ァ!」

「ハハッ、助かります!では失礼」


ひらひらと手を振って尾道を見送り、興奮冷めやまぬ様子といった皆々の顔を一人ずつ確認する。言うまでもなくリボーンが落ち着いていた。


「確かに"そう遠くはない"な」

「先生が聞きたがっていた事とは少し違うよ。関係はしているけれど」

「そーか。ま、一先ず話そうとしてることを話せ。マーモンの奴が今にもお前を殺さんばかりに殺気立ってやがる」

「恐ろしいね」


超直感が術士に相性が良いからある程度は対抗可能とはいえ、あのアルコバレーノ。
幻術酔いもしたくはないし、これはリボーンの言う通りとっとと話を始めた方が利口だ。赤ん坊が出すべきではないオーラがマーモンから出ていた。



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