成り代わり | ナノ


ボンゴレファミリー十代目ボス・沢田名無と対面した時、僕すらも含めてこの世界の物全てを俯瞰して眺めている彼女を見てまさしくプレイヤーの鏡だと思った。


「この世の中はしっくりこないし気持ち悪いだろ?」

「しっくりしてはないが、別にどうとも」


本当なら即撃ちの予定だったけど、ユニちゃんと違ってあまりにもプレイヤー然としてたから質問をする。
うーん、僕とは感想が違うな。でもかなり近いや。ちょっとだけ殺すのが惜しくなっちゃったな。でもボンゴレリングを持たない君には用が無いんだ、バイバイ♪
……で射殺をしたのは良いけど、なんでキーアイテムを壊しちゃったのかも聞いとけばよかったなと後悔。
だって壊したのは未来の名無チャンであって、過去の名無チャンに聞いても意味ないし。
はー、撃つのなんて何時でも出来るしもうちょっと後回しにしとけばよかった。失敗だなあ。



また元気な君に会えるとは嬉しいなあ、名無チャン。
メローネ基地もイタリア主力戦もチョイスも楽しかった!……けど、君にはガッカリだ。
もうちょっと面白い人かと思ったのに、彼女は現状に流されて決定してばかり。何かを成し遂げてやろうっていう気概がいっさい感じない。
僕は73を集めてるけど、君は何を目的にしてるの?未来の君はリングを壊しちゃうし、過去の君は元の時代に戻ろうとするだけで他の欲が見えないし。
実力はこの時代に鍛えられて伸びてきてる。でもそれだけで、つまらない。
第一印象は僕のセンサーがびんびんに反応したのに。未来の君だったからなのかなー?過去の君もとってもプレイヤーらしいけど、未来の君ほどじゃない。



「ぷ、はははっ!ふふ、あはっ」

なに、今の。
絶望的な状況であるにも関わらず唐突に笑い出した名無チャンに僕も皆も視線が集中する。
笑ってる。テレビのクイズ番組で解答者がアホな解答をしたのを見た時みたいな笑い方だ。
気に食わなかった。
もっとやるべき反応あるじゃん。君の守護者たちの方がよっぽどふさわしいリアクションをしてくれるんだけど。
……そのリアクションも君の笑いで全部持って行かれたけど。骸クンとXANXUSクンの顔がすっごい事になってる、ウケるー。
何故君が笑い出したのか理由を聞いてみた、でも僕の言葉なんてなかったかのような態度で仕切り直されてスルーされる。
まあ別に良いよ、それより大事なこともあるし。



「生まれ以外は間違いなくただの一般人だった君が……最初からこうも歪んでるなんてレアだよ、レア」

君と僕の共通点。それは大空属性のリングを保有するプレイヤーである事。あ、違うか、プレイヤーだからリングを持ってるんだった。
僕も他と比べて結構違うところはあるけど、感情移入はするし頭に血が上る時もある。
でも君は本当に他人に無関心♪ボンゴレの大空の守護者としての使命、全てを包み込む大空をある意味再現してる。無関心だからこそ何もかもを受け入れる、無慈悲の大空。
誰かに馬鹿にされて怒ったことなんかないんじゃないかなぁ?NPCだからとかじゃなくて僕が言っても変わらないと思う。それが彼女の性格なんだろう。


「リングから放たれる炎の大きさは覚悟の大きさだよ。君の覚悟はこんなものかい?」

「ぐっ」


煽ればリングの炎圧が強まっていく。

(何を覚悟にして炎を出してるのかな?)

思わずそんなことを考えた。
表面上の彼女は口数はそう多くないけど仲間思い、そんな彼女を慕って仲間も増えていった。仲間を理由に炎は強くなっているように見える。
けどさ、彼女はそんな子じゃない。仲間たちに興味も関心も無いんだ。いったい何を動力源にしてるのか本当にわかんない。
その癖、

(……美しい)

リングや額、グローブに燈される炎はそう思わせてしまうような程澄んだものなんだ。


「君のどんな気持ちが此処まで炎を高めるのかな、教えてよ」


大空の共鳴が起こり結界が出来上がった事で僕の質問には答えられなかった。
しかもユニちゃんがアルコバレーノの復活を目論んでたことも分かっちゃったし、名無チャンと組まれたら面倒だから一先ず名無チャンの意識を断つ。
殺しはしないよ、聞きたいことまだまだあるもん。
これでこの大空のスペシャルステージには僕とユニちゃんのみになる。


「名無、お前は白蘭を倒さなきゃなんねーんだ」


何を見ていたんだろうか?彼女は今完全に僕が倒した。
なのにリボーンクンは気絶して何も言わないし言えない名無チャンに声をかけ続ける。
黒曜戦、ヴァリアー戦でもリボーンクンはああやって彼女に発破をかけてきたんだろう。彼女もそれに応えてきた。
レベルアップの為のイベントクエストを進めてくれるのがアルコバレーノの一人なんて名無チャンは運に恵まれてるなー。ボンゴレの権力も持ってるし。僕は一人で一から始めたからコネクション零だったんだよ?ま、それはそれで楽しめたけど。というか並行世界の知識がある分僕が一番チートだったや、てへ。
この一連の会話は彼女を戦闘に復活させるイベントなんだろう、僕が有利すぎる状況だから。


「げほっ、がはっ」


あ、やっぱり起きた。すごいコンビだなあ。うん。
名無チャンが咳き込みながら意識を取り戻す様子を当然だと言わんばかりに見つめるリボーンクン。
腹の奥がずんと冷たくなっていくのを感じた。
よーし、もうイベントは終わったよね。


「ユニは、渡さない、ぞ」

「――――」
(気に食わない――)


奥の奥の方まで更に冷たくなる。
『ユニは渡さない』?それは……ユニちゃんに護衛を頼まれたからで、周りの意思に流されたからだろう。
この最終決戦のラストスパートにまできても君はNPCにやれと言われた事しかやらないんだね。
普段は軽く動く口が鈍い。仕方がない、この苛立ちは身体で表現しよう。
まだ倒れている名無チャンの傍に寄って何度か蹴りでダメージを入れて、最後に重い一発を食い込ませる。
苦しむ彼女を見て周囲の皆、特に一般人の子たちの悲鳴が強くあがった。

(彼女は君たちのことなんてどうでもいいんだよ!)

同じプレイヤーである僕とユニちゃんにも関心がないんだから、リボーンクンと違ってただのNPCである子の声なんて耳に入るわけがない。
名無チャンの柔らかい髪を掴み、ぐいっと持ち上げた。
死ぬ気モードの時とは違う、彼女本来の茶色の瞳と視線が合う。


「ねえ。"この世の中はしっくりこないし気持ち悪いだろ?"」


君はプレイヤーだ。ユニちゃんよりもずっと僕に近い。
気持ち悪く感じないのはどうして?違和感はあるんだろ?このしっくりこない感を忘れるために熱中する何かが欲しくは無いの?
なんでもかんでもNPCにゲームの方針を任せて、オート状態で進めて楽しいかい?
ほら、そのせいで君は負けるよ。勝つ可能性があるのはこの世界にしかないのに、最後までそのままなのか?
もっと楽しみなよ、このゲームを。
折角プレイする機会に恵まれたんだから大胆に動けばいいじゃん。
もっと君の力を見せてくれ。
もっと君の考えを見せてくれ。
そんなつまらない顔してないで、楽しんでよ。


「……しっくりしてはないが、別にどうとも」


ああ、やっぱり君は僕に似ている。
似ているけど――こうも違うのだ。





「お前を尊敬するよ」

呆気にとられて言葉が出なかった。

「楽しむ努力を続けてエンドコンテンツをクリアしようとして、頑張ってる」

笑った……また笑った。

「だが私は知っている。知ってるからお前みたいに出来ない。私はゲームを楽しめないんだ」

じゃあ君が楽しめるように僕が障害を排除してあげる。
君は何を知ってるというの、全世界の最先端を知る僕が何を知らないというんだ。

「それが何故なのか、誰も言い当てる事が出来ないから余計に楽しめない」

「何を言って、」

「このゲームには一から十までシナリオが組み込まれている。自由なんて存在しない」


今までの全てがゲームのシナリオだった?そんな馬鹿な。


「なあ、白蘭――全てが神様の掌の上なら、大人しく従っておくのが一番だと私は思うんだよ」


だから君は君自身を見せてくれないと?
君が僕の翼を見て笑ったのはそういうことか、そこまで織り込み済みだったというのか。
だったら、それならば僕は!


「僕の終わりは僕が決める!!まだ神の掌に留まっているというのなら更なる進化をしよう!僕はそんな物に操られたりなんかしない――




――――そして、君を手に入れる!!」



………………あれ?


意識せず腹の底から出てきた言葉に僕自身が信じられなかった。



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