成り代わり | ナノ


候補者たちが運悪く相次いで死ぬのも、晴れのアルコバレーノが家庭教師になるのも、専用の武器を入手するのも、九代目の養子が八年の眠りから目を覚ましたのも、未来でボンゴレ狩りが行われるのも、何事も筋書き通りだ。
どう終わるのかは既に決まっている事なのだから、ただ流れに身を任せる。


「また元気な君に会えるとは嬉しいなあ、名無チャン」

「白蘭」


それは依然変わりなく、今も続いている。
相手がかけてくる言葉に返答すれば周囲の人々が動き、筋書きが書き込まれた台本の頁が進んでいった。
私が女であることで多少なりとも変化は起こっているが大筋にはなんら影響はない。


「お前達は下がっていろ。こいつの相手は私だ」


パラリ。パラリ。パラリ。台詞を話しアクションをとりながら一頁ずつ炎で彩られた派手な展開が繰り広げられる。
GHOSTが吸い込んだ炎の全エネルギーを受け取った白蘭の背中から白い翼が生え、本章がクライマックスを迎える為の準備が整っていく様を眺めた。


「この翼はただの炎じゃないよ、象徴ね。僕が人間を超えた存在であることの象徴、証明だよ♪」



「ぷ、はははっ!ふふ、あはっ」


ああ、失敬。思わず笑ってしまったよ。
そんなに睨まないでくれ、私のうっかりで場の空気を崩して本当にすまないと思ってる。そうだな、私が取るべき行動はこれじゃない。
怒るのは御尤もだ。ちゃんと筋書き通りにするから。


「……今の何処に笑う要素があったのかな?教えてくれない?」


疑問符こそついているものの実質的な命令だった。
それよりも本筋を進めなければいけなかったので、拳を握って白蘭を倒す宣言を告げる。
眉を顰めた白蘭との戦いともいえない戦いは続き簡単にこちらの技を打ち消される。拍手なんかで無効化されるのは絶望的だ。
現実ならね。
此処は現実であって現実ではない。此処に生きる者たちにとっては疑いようのない現実なんだろうが――――


「どうだい名無チャン?いまだかつてこれほど圧倒的な力の差を感じた戦いはないんじゃない?……なのにどうして君の顔色は変わらないんだろうね」

「表情の筋肉が死んでいるだけだ、お前の能力はとても恐ろしい」

「表に見える話じゃなくて心の内の話さ。マフィアのボスといってもまだ中学生だろう?成長していってこうなったんじゃなくて、黒曜での戦いの時もヴァリアーとの戦いの時も、今も、君はなにも変わらない」

「うら若き乙女を覗き見か、良い趣味をしている」

「可笑しいよね、生まれ以外は間違いなくただの一般人だった君が……最初からこうも歪んでるなんてレアだよ、レア」

「レアな生き物ということで見逃してくれるのか?」

「まさか♪」


少しばかり中弛みはあったが、白蘭は私への攻撃を再開し背後をとって首を絞めてきた。
息がし辛く苦しみながらリングの炎圧を高めていく。
そろそろか、と思考した直後に73それぞれの大空属性の結界が発生し、引力によってユニが強制的に戦いの場に合流する。
パラリ。パラリ。パラリ。
さて、次はどうすれば良いんだったか。
……そうだった、リボーンの台詞の後の丁度いいタイミングで起きるんだった。
意識不明状態からの復活になるので意図的な合わせは出来ないが、問題ない。そもそも合わせる必要が無いのだから。


「がはっ、うっ……」

「沢田さん!!」

「10代目!!」


耳を澄ませて周囲の状況を確認するが、矢張り問題はなかった。筋書き通りだ。


「アハハ、名無チャンてば本当にリボーンクンの叱咤激励で起きちゃったよ。すごいコンビだなあ君達」

「ユニは、渡さない、ぞ」


傷だらけで這い蹲っている私とは裏腹に無傷で立っている白蘭にそう言うと、不愉快そうに私を睨みつけてくる。
絶対的優位だというのに何が気に食わないのだろう。いや考えるまでもないか、私が脅えていないからだろうな。
ぺらぺらと回る口を動かさずこちらにやってきた白蘭は私の身体を蹴り上げた。追い打ちをかけるように鳩尾に一発きついのを入れられ、痛みが走る。
髪の毛を掴まれ、顔を無理やりあげられて白蘭の目と視線が合う。





「ねえ。"この世の中はしっくりこないし気持ち悪いだろ?"」


「……しっくりしてはないが、別にどうとも」



「そう……変わらないね、君。変わるはずもないか……生まれた時からそうだったんだろうし」



――――ああ、そうだな。生まれた時からずっとそうだ。


「どこに行ってもどこを見ても人も社会もなにもかもが僕には景色に見える。君もそうだろう、絶対そう」

「無視?酷いなあまったく。だから気に食わないんだよ君は」

「こんな終盤にプレイヤーの方針をとやかく突っ込む意味ないけどさ、君があんまりにも、あんまりにもすぎるプレイスタイルだからケチつけちゃうよ」

「折角のゲームなんだ、プレイしてるならもっと楽しもうよ。君は努力を怠っている。そんな風に斜めに構えてるから楽しめないんだ!」


――――なんだ……良い奴だな、お前。私にとっては。
――――でもなあ、白蘭。お前は前提条件を間違ってる。


「白蘭、このゲームのジャンルはなんだ?」

「ん?んー、そうだなあ。アクションもあるしシューティングもあるし、経営や戦略シミュレーションの面もある。ロールプレイング要素も当然あるから……全部に対応したすっごいやつ、かな!」

「自由度が高い、やり方次第でどんなエンドも迎えられるゲームか」

「うんうんその通り。……で、君は何が言いたいの?ゲームに本格参戦する気なら、もう遅いけど」




「お前を尊敬するよ」


きょとんと目を丸くさせる白蘭に向けて、この世界に生まれて初めて自ら微笑んだ。


「楽しむ努力を続けてエンドコンテンツをクリアしようとして、頑張ってる。だが私は知っている。知ってるからお前みたいに出来ない。私はゲームを楽しめないんだ。それが何故なのか、誰も言い当てる事が出来ないから余計に楽しめない」

「何を言って、」

「このゲームには一から十までシナリオが組み込まれている。自由なんて存在しない。なあ、白蘭――




全てが神様の掌の上なら、大人しく従っておくのが一番だと私は思うんだよ」



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