成り代わり | ナノ


「聞け名無〜!来週な、父さんの上司がイタリアから遊びに来るんだぞ!」


"イタリア"
その単語にぴくりと反応し、遊んでいたライオンの玩具から目を離し顔を上げる。


「父さん、イタリアで働いてたんだ」

「お、なんだ知ってるのか?ピザとかジェラートとかおいしいもんが沢山ある国だ!」


にこにこと笑いながら父が俺を抱き上げ、わしゃわしゃと雑に頭を撫でた。
されるがまま無抵抗で受け入れる。首の力がまだ弱く、力が強い父にこうして撫でられる度がくがくと動いてやがて千切れてしまうのではと思った。そうなったところで問題はないのだが。
イタリアという国の説明を続けている父の話を遮って声を出す。


「俺、イタリアに行きたい」


ぽかんとした顔になったのも束の間、「イタリアがそんなに好きか!」と謎の返答をした父さんの手によって、急遽家族総出イタリア旅行が開催される事となった。




俺には前世の記憶というものが存在する。前世の俺というのはイタリア生まれのイタリア育ち、父親も母親も先祖もイタリア人という生粋のイタリア国民であったのだ。
事故によって死んだと思えば極東の国日本で新たな生を受けていた。聞きなれない言語で話す看護婦や医者、母さん。事態を理解していない赤ん坊IN俺の状態から見れば巨人共がよってたかって俺を見つめ抱き上げているという奇妙な体験をし、夢でも見ているのかと思いながら赤ん坊ライフを送ること暫く。夢ではなく現実であると受け止めた。
日本語は平仮名カタカナ漢字音読み訓読みetc覚える事が多い為、習得を後回しにしていたツケが回ってきた。実に面倒だったが、日本で生きる上で日本語が使えなければ話にならない。

不自由なく日本語を扱えるようになり幼稚園に通っている俺に、父さんが祖国イタリアの名を出してきた。
単身赴任で何処に働きに出かけていたのかと思ったがまさか海外、それも前世の俺が生まれ育った地とは考えにも及ばなかった。物は試しにと口にしたイタリア行きの提案があっさりと許可された事には驚いた。
事故で死んだ時も驚いた。赤ん坊に生まれ変わった時も驚いた。日本人である事に気付いた時も驚いた。父がイタリアに職を置いていると知った時も驚いた。


「名無」


そうして、今も驚いている。


「おい、何処に行っていた名無。俺の傍から離れるな」

「ごめん、犬がいたから、つい」

「俺に一声かけてからにしろ。ボンゴレの捜索チームを総動員させたくなかったらな」

「俺を探す為だけにそんな労力を使わせるわけにはいかないな、分かったよ」

「フン」


前世の俺であるナナシが目をかけていたストリートチルドレン、XANXUS。
父の上司ティモッテオに挨拶をする時、彼がその場にいた事に酷く驚いた。だがそれよりも、その直後の出来事にこそ驚愕した。XANXUSは俺がナナシだと見破ったのだ。はっきりと「ナナシ」と呼ばれたので間違いない。その声は随分と震えていた。最後に見た彼の姿はみすぼらしい服装に貧相な身体だったが現在の彼にあの頃の面影は無い。
久し振りに呼ばれた前世の俺の名に間抜けな面を晒していると、XANXUSは俺を抱きしめた。
……死ぬかと思った。XANXUSお前、力強すぎ。父さんの方がマシだ。


「XANXUS」

「なんだ」

「夕飯、一緒に食べようね」

「……当然だ」


これから先の人生でXANXUSはきっと幾つもの驚きを俺に与えてくれるんだろうな。
そんな確信を抱きつつ、小さい俺というのが珍しいのかお兄ちゃんぶりたい年頃なのか、XANXUSのさせたいようにさせるべく両手をあげた。
逞しい腕は幼子である俺の身体をいとも簡単に持ち上げる。


「良いか、ナナシ……俺以外の奴にこれをしたらカッ消すぞ」

「こら、名無だ。しないよ……と言いたいけど母さんにはする」


父さんにはしないし、他人には当然しない。まだ幼稚園生の子供だしこれぐらいは大目にみなよXANXUS。
実に不満気なXANXUSの表情にくすくすと笑みを零しつつ、XANXUSの腕の中で彼の体温に触れながら、随分と大きくなった身体に凭れ掛かるのだった。



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