とても、眠い。連日連夜の作業が間違いなく響いている。
でももう少しで終わるからもうちょっとばかし我慢すれば済む事。頑張れファイトと自分を鼓舞しながら目を擦る。
「強くやりすぎだよナナシ」
「レフ」
さっきまで居なかった筈のレフが僕の腕を掴み、困った顔で言ってきた。
きょとんと目を丸くしてから苦笑して返す。
「それだと目が傷ついてしまうだろ?医療部門トップくん」
「分かってるんだけど、ついね。すまない」
「隈もあるが、切羽詰まった仕事でもあるのか?」
「いやぁ実はその通り。と言っても煮詰めれば今日中に終わるから問題は無いよ」
うっかり寝てしまわないように珈琲をがぶがぶ飲む必要があるけれども。
レフに指摘された通り医療に携わる者が身体に悪い事を率先してやる訳にはいかないのだが、やらないと仕事が終わらない。
……任された仕事の存在を今の今まで忘れてしまっていた僕が完全に悪いから何も言えないんだなこれが。くそぅ。
あ、なんだか頭痛がしてきた気がする。咄嗟にこめかみを押さえた。
「それじゃあ僕はこれで」
「待ちたまえ」
「うん?」
「無理をして進めても納得がいく出来にはならないだろう、一旦休んだ方が良い」
心配をしてくれているのだろうか。気まぐれかな。どちらにせよ、僕にとっては早めに終わらせたい一択だ。
「正論だね。でも僕は今日で終わらせて明日に――」
「おや勘違いさせてしまったかな。言い方を変えよう、休みたまえ」
え、強制?
「そんな顔色だと何時倒れても可笑しくないぞ、ナナシ。部屋まで送るよ」
「い、いや大丈夫だよ、自己管理くらいちゃんと」
「早くベッドで休め」
「……レ、レフ?」
こんなに頑ななレフは魔術研究以外で初めて見る。
ただの道端の会話でこういった面を見せてくるとは思わなかった。
「君が心配なんだよ。もっと己を労わってくれ、ナナシ」
浮かべる表情は本当に僕を心配しているような物に見える。本物でも偽物でも、僕のやる事は変わらない。
何時、あれが始まるか分からないのだから。
「ありがとう。じゃあちょっとだけ休んで、続きはそれからやろうかな」
「……ああ、そうしてくれ」
それまでの間倒れる訳にはいかないし、始まればそれこそ倒れている暇はない。
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