成り代わり | ナノ


「止まれ」

「……ああ、君は確か」


ディオに付き従っている部下は大勢いるがその中でも異彩を放つ男が眉根を寄せて背後に立っている。知識にも彼は存在していた。無表情のままヴァニラは俺の腕を引き、中庭に進めようとしていた足が一歩二歩と下がる。
「入るな」と簡潔に告げて腕を放した。中庭に入っていけない理由でもあるのだろうか、それとも館主のディオだけが入れる場所か。
暖かい陽が入り込み力強い木々が生えている中庭を名残惜しみ、一度振り返ってから部屋に戻った。
ディオが平然とベッドに寝そべっている。


「戻ったか」

「自分の部屋で読みなよ」


この時間だと眠っているのが常なのだが今日は珍しく起きて趣味の読書を堪能していた。読書をしていようが寝ていようが俺のベッドを使うのは止めて欲しい。キングサイズだから巨体二人でも問題ないだけで、精神的にキツい。
人間時代はこんな事をしなかったというのに。切実に止めて欲しい。自室だというのに一切安らげない。
と言っても目覚めて以降ずっとこうなのでいい加減慣れてしまった悲しい現実があった。


「なあ、どうして中庭に入っちゃ駄目なんだ」

「……テレンスかエンヤ婆か、ふむ、ヴァニラだな」

「ああ」

「今の時間帯を考えろ、当然の事だろう」

「すまないが分からないな」


どうしたその顔は。いや、本当に分からないよ、すっとぼけたりなんかしないさ。
何も言わずにディオの顔を見つめていると溜息を吐いて上体を起こし肩を竦めた。此方の気を削がせる動作だ。


「ジョジョ、お前は屍生人だ。名実共に俺の下僕となったわけさ。理解できたかね?」

「へえ」


理解したので頷いてやる。しかし、俺が知る限り屍生人化した者は凶暴な面ばかりだったが……そういえば船が沈没した時にいた部下の東洋人はそれなりだったかな。他と比べればだけど。
自覚する限りでは生前の俺と今の俺に違いは無い。血が飲みたいとか誰かを襲いたいとか、そんな衝動もない。不思議だったが無いなら無いで助かる。無実の人を殺めたくはない。


「石仮面は何処かの誰かが破壊してくれたし、吸血鬼は吸血鬼を作る事は出来んようだからなあ。残念だよジョジョ、俺はお前を同等の存在にしたかったのだが」


時計を見ると日没までまだ暫くかかる。昼間の中庭を散歩出来ないのは残念だが夜中は夜中で楽しめるだろう。ぺらぺらと口の減らないディオを放ってベッドに寝転がった。
少しだけ仮眠をとろうと目を閉じかけた瞬間、ふとした考えが思いつく。ちょっとした興味で、ディオに問う。


「明るい日差しの時間の中庭で、俺と紅茶でも飲まないか」

「……貴様は先程の言葉を理解していなかったようだな。まさか此処まで血の巡りが悪くなっているとは思わなかったぞ」

「そうか、残念だよディオ」


どうやらディオは死にたくないようであるし、俺の事も死なせる気はないようである。
答えなんて分かりきっていた。勿論、深夜の茶会は此方側からお断りだ。今度こそ目を閉じて眠りについた。






「……チッ」


後日俺は知らされる。不機嫌なディオが深い睡眠に入った俺を殴った後業者に連絡し、中庭を改装して太陽が入る余地のない天井を作り人工光を設置して正に『物は言い様』という空間を用意した事を。
確かに間違っては無い。が、これは無い。



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