成り代わり | ナノ


「これで仕上げだ、ほっ!」


豪快なやり方で船を作り上げていく人物の後ろ姿を見て、心が震えあがった。
凄い!
やってみたい!
おれもあんな風にすげェことをやり遂げられる男になりたい!
血が昇り昂ぶった頭のまま、廃船島から去ろうとするあの人の元へ突っ走る。


「おれをアンタの弟子にしてくれ!!」

「ん?なんだ小僧、船大工になりてェのか?おれ以外に当たった方が良いぞ」

「アンタみたいになりたい!!」

「……!たっはっ……!!っ……!!……!!おれが目当てか!」


一発OKだった。あんな凄い事を出来る人は器も相応のものだということだろうか。あ、違った。人じゃなくて魚だ。
おれが弟子入り志願した相手は人間ではなく魚人だった。しかも社長だ、お偉いさんである。OKを貰った後に社長秘書のココロさんから教えて貰った。ココロさんは一見すると人間だが実は人魚らしい。男と女の構造は大分違うそうだ。はー……まったく知らなかった。


「ナナシだっけか?人間の割に見る目があるじゃないか、トムさんの腕は世界一だからね」

「やっぱり世界一なんだな!?やり方が只者じゃなかった、本当に凄い!」


ココロさんお手製のカレーを頬張りながら話に目を輝かせる。
もうそろそろ夜だから今日は家に帰れと言われたが、親無しだし定住してる場所もない、とおれが返すと、じゃあ住み込みで、とトムさんはもう遅い時間なのに毛布を買い出しに行ってくれた。
いきなりやってきた見ず知らずの孤児を受け入れた度量にあの腕前となれば感服するしかない。

今までは今日一日をどうやって生き抜くかを考える日々だったが、トムさんに弟子入りしてから日常は一変した。
トムさんから造船技術を学びココロさんの飯を食べ毎日修行。船大工に必須な計量は木材や設計図を見れば感覚的にどうすれば作れるか分かったのだが、きちんと原理を理解していた方が良いとココロさんに言われ文盲のおれに読み書きと算数も教えてくれた。

ただ設計図を渡されてこれを作れと命令される通りに作るだけだったらそこまでやる必要はないが、おれが目指しているのはトムさんだ。トムさんが出来る事をおれも出来るようになりたい。
計量学を学び、船と繋がりが深い海や天候についても学び、船を欲しがる客のことも学んだ。
目まぐるしい時間を過ごしている内におれの身体も成長し、だいぶ背も伸びた。そして、トムさんは新しい弟子を受け入れたようだった。


「おめェと同じ廃船島で会ったんだ、仲良くしてくれ!」


あの時のナナシはもっと小さかったなと面と向かって言われちょっとばかし気恥ずかしかった。
視線を反らし、下を向くと生意気そうな顔をした餓鬼と目が合う。
こいつがおれの弟弟子か……とまじまじと見つめ、兄弟子としてとりあえず舐められないように睨み付ける。


「おれはナナシ、トムさんの一番弟子だ。お前の名前は?」

「……フラム」

「フラム?変な名前だな、フランキーで良いだろ」

「何でもいい」

「フランキー、始めに言っておくが……トムさんの名を汚すようなことをしたら!直ぐに!叩きだすからな!」

「お前の指図なんか受けねえ!」

「ああ!?おれァお前の兄弟子だぞ、言う事聞け!」

「やだね!」


クソ生意気でガラクタばかり作る厄介な弟弟子が増え、おれの日常はまた色を変えた。



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