「とうさん!」
まだ声変わりが来ていない幼く高い声で私を呼びながら、ジョナサンは服や手を泥で汚した状態で私の腰に抱きついた。
控えていた執事がやれやれと言いたげな顔をするのを困った顔で一瞥してから屈んでジョナサンと目線を合わせる。
「さて、今日はどうしたんだい、ジョジョ」
「すっごいおおきなきのねっこをね、こうやったの!そしたらね!へんなのがいたの!もってこよーとしたんだけどずりずりしてもだめだったよ!」
北西にある木の根本を掘ったら何かしらが埋まっていてそれを私に見せようとしたが重量があって持っていく事が出来ず、引きずって行こうとしたがそれも無理だったのか。
「そうかそうか」
「ねえおしごとおわった?あっちだよ!」
「エドワード」
「……仕方がありませんね、畏まりました」
「ありがとう。では連れて行ってくれるかな、ジョジョ」
「うん!!」
私とエドワードの顔をきょろきょろと不安気に見上げていたジョナサンの表情がぱっと明るいものに代わり、笑顔で頷いて私の手を握る。
赤ん坊の手を紅葉のようだと例える表現があるが、その通りだと思った。小さく愛らしい。
将来ジョースター家を継ぐ長男としてそれ相応の教育をしなければならないのだが、どうにも私には向いていない様であった。紳士たるもの常に余裕を持たねばならないが、まだジョジョは二歳。泥まみれになって外を駆けずり回るのは至極当然の事だと思うのだ。
前世の影響で今の周囲の常識と齟齬が出るのは仕方がないと捉えるべきか?まあ、仕方がない事なのだろう。少なくとも自分だけではどうしようもないのだから。
「父さん、どうしたんですか?」
年を取ると月日はあっという間に過ぎていく。ジョナサンが生まれてから十二年だ。
微笑みながら手紙を持っている私を見て、ジョナサンは不思議そうに見つめてくる。
「命の恩人から連絡があってね」
「恩人……あっ、ダリオ・ブランドー?」
「ああ。どうやら病気にかかってしまって、先が短いらしい」
「えっ、そんな!?」
「それで、一人残されるディオという名の息子を引き取って欲しいと言われたんだ」
ジョナサンは悲しげに瞳を揺らしながら手紙から視線を反らし、希望を持とうと言葉を紡ぐ。
「ダ、ダリオさんはもう助からないんですか?今すぐ医者に診て貰えば助かるかもしれない……!」
「既に人は送っているが……本人も死期を悟っているようだ、あまり期待をしない方が良い」
「……そうですか」
心を痛めているジョナサンの肩を叩く。
彼の件については残念だが、一度も会ったことのない私の恩人に対して心を砕く優しい性根の持ち主に育ってくれて嬉しく感じる部分があった。
「医者が間に合えば良いが、ディオがジョースター家に養子にやってくる可能性はある。その時はジョジョ、ディオと兄弟になってくれるかい?」
「はい、勿論です!」
とても元気よく返された声に微笑み、ジョナサンの頭を撫でる。
「わっ……父さん、僕はもう十二ですよ。幼子相手じゃあるまいし」
「私にとっては幾つになっても子供さ」
「……もう。勉強の時間の時も今みたいに優しくしてくれたら良いのに」
「それとこれとは話が別だからね」
恥ずかしそうに俯くジョナサンを存分に撫で、手を離すと少しばかり寂しげな顔になってくれる。
可愛らしく思うのは私が親馬鹿だからだろうか。この程度普通だと思いたい。
もしディオがやってくるとしたら息子が二人に増えるということになるが……つまり可愛らしさが二倍になるのか。不謹慎だが少しばかり楽しみだった。恩人の大切な息子だ、しっかりと育てないと。
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