入学一年目。
「ジュンコ、ジュンコ……!ああ、なんて可愛いんだジュンコ!相変わらず君の肌はとてもスベスベで清らかだ、蛇の中で一番美しいよジュンコ!」
「シャー」
かぷり。
ジュンコは嬉しそうに僕の腕に噛みついた。(うわあああ名無!!?)
この行動は、ジュンコの信頼の印。この程度じゃ僕は死なない。ある程度毒の耐性はついたし、火縄を常備してるから万が一致死量の毒を与えられても噛まれた部分を焼けば良い。
舌で頬を舐められてからジュンコはまた僕の首に巻き付き、綺麗な目を閉じた。
「名無!!」
「はい」
「大丈夫か!?!」
汗をだらだらにかいて頬をひきつらせながらやってきたのは同じ委員会に所属している二つ上の先輩、竹谷八左ヱ門だった。
なにに対して大丈夫だと言えばいいのかが分からず、聞き返す。
「何がですか?」
「さっき!ジュンコに噛まれただろう!?医務室に行かないと!」
「ああ、それ。問題ないです、耐性持ってるので」
「医務室!!」
困った、話を全く聞いてくれない。心配性だなぁ。
ぐいぐいと僕の腕を引っ張って医務室に連れて行こうとする先輩は、自分が着ている萌黄色の忍装束を見て気を落ち着かせればいいよ。緑って気分が落ち着く効果がある上に目に良いらしい。
こんな傍で大声出されちゃジュンコがゆっくりできない。
「ああもうっ!もたもたするなって!」
「ですから、大丈夫なんですって」
「五月蠅い!」
「先輩の方が五月蠅いです」
「良いから行くぞ!」
ぐいぐいぐい。袖を引っ張られる。二年の差は大きく、抵抗虚しくあっという間に医務室についた。
「シャー?」
「ごめんねジュンコ、騒がしくて」
どうしたの?と言っているのだろうジュンコにデレデレとした笑顔を向ける。
締りのない顔になっちゃうけどそれもこれもジュンコが可愛いからだ。仕方がない。
「名無、話がある」
「はい、なんでしょう。僕とジュンコの会話を邪魔しないで頂けると嬉しいのですが」
「それは次から気を付ける」
「ありがとうございます」
「名無は自分の身を試みないな、ジュンコとか他の動物たち優先で」
当たり前だ。それに竹谷先輩だって動物を一度飼ったら責任を持って世話をする。
人として当然の事だと言いながら有言実行をしているこの先輩は、割と好きだ。
不満気な顔をしている僕に気付いたのであろう竹谷先輩は困った顔で僕を見る。
「もし毒じゃなくて実習で負った傷でもお前は気にしなかったろうな」
否定はしない。
「良いか、少しの擦り傷でも生き物は死んでしまう可能性があるんだ。名無、お前だってジュンコがほんのちょっとでも怪我をしたら此処に来るだろう?」
「はい」
新野先生から処置を施される僕に、先輩は厳しい目を向けた。
「それはお前がジュンコに万が一の事が無いか心配だからだ。大好きだから、可能性が低いとしてももしもの事があったらと恐ろしく感じてる」
「その通りです……はい」
「俺はな、名無がジュンコを想ってるのと同じ位名無の事が心配なんだ!」
「そうなんですか?」
「当たり前だろう!」
「……そうなんですか」
「だから、ジュンコと同じ位お前自身の身体も大切にしてくれ!ジュンコ達に構いっぱなしで自分の身体を放る名無を見てると、俺は苦しい!」
「苦しい……」
思わず言われた言葉を反復させ、目を丸めた。
「生物を大切にするお前の気持ちは立派だ。そんなお前が俺は大好きなんだよ!いいか、名無!これから怪我をしたらきちんと医務室に通うように!!」
「は、はいっ」
よしよし、と満足そうに頷く竹谷先輩。
思わず僕も勢いで返事をしてしまったが、何というか、心成しか新野先生が僕らを見る目がとても生暖かいような気がする……
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