戦好きのタソガレドキ城主等と呼ばれているが、儂は別に戦好きではない。
至って普通だ、普通。
先代が急に死んでしまい若い頃の儂が引き継つぐ事になり、その事を不安視した古狸共を黙らせる為には分かりやすい功績が必要だった故領地を広げるべく戦っただけ。
仮に失敗しても日ノ本が滅ぶわけでもない。そりゃあ上手く様に気は遣ったが、気負う事は無く周辺の敵に宣戦布告をしてうちの優秀な兵をぶつける。部下のお蔭で勝つ。領地が増える。疲弊した兵力を整えまた別の敵に宣戦布告をする。先の戦で増えた部下を使いながら戦に勝つ、また領地が増える。この繰り返しだ。
それだけだというのに、まるで儂の血の気が多いような悪名が広がっている……なんとも虚しい。
「殿、そのように溜息を続けておられますと幸せが無くなってしまいます」
肩肘をつき、ぼんやりと考えている途中で声をかけられ意識が戻る。
そんなにも溜息を吐いていたかと疑問に思うが、相手がそう言うのなら真実なのだろう。
「捕まえておけ」
「……はっ」
ぱちん、ぱちん。拍手の音が部屋に響く。
屋根裏に潜んだ人物は目に見えない物を生真面目にも捕えようとしているようだった。
「相変わらず真面目だな。よい、止めよ」
音は秒もかからず止む。
「下りてこい、俺は暇だぞ」
「……見てれば分かるさ」
「ははは、酷い奴だ。暇を弄んでいる俺を放っていたのか」
纏う雰囲気をオフ時の物に変えれば今まで屋根裏に潜んでいた人物、山本陣内は素直にタソガレドキ城主の自室におりたった。
「暇なお前に絡まれると面倒だからだよ」
「酷ぇな。もっと俺に優しくしてくれよ、殿だぞー偉いぞー」
「はいはい」
「陣内」
「はい」
「膝枕」
「はいはい」
ぱんぱんと床を叩けばしょうがないなというように、手慣れた様子で何時もの格好になる。
陣内が座り、名無は用意されたものに遠慮なく頭を乗せた。互いに恥じらいは全くなく、堂に入っている。それは今までに何回も繰り返されてきた行為なのだから当然と言えば当然であった。
「うーむ、硬い!」
「当たり前だ」
「そうだ陣内、お前女になれ。下半身だけでもいいぞ」
「馬鹿か?」
「寝辛い」
「ほんに物好きだよ、若は」
黄昏名無も山本陣内も同じだけの時を刻み既に身体はおっさんそのもの。
今更、「小頭」から若と呼ばれるような立場ではないし、「殿」から陣内と呼ばれるような立場でもない。
しかし、そんなことはどうだっていいのだ。
殿と忍ではなく、ただの昔馴染みとしていられる空間がなんと貴重な事か。
「あー辛いー、子も作ったしちゃんと作業すませてんのに家臣がすげえ言ってくるー、やることやってんのに俺を虐めるなんて最低だー」
「今朝方にピーマン残したろ」
「もう背なんか伸びねえよ、食いたいものだけ食う。てかそんなん俺のやるべきことじゃねーし」
「きちんと栄養を考えた上でのメニューなんだから食え」
「うっせー」
完全にゆるだるっとした空気で、段々と名無の瞼が下がってくる。
全く頭を使わない雑談によって眠気が割増で襲ってきているようだった。
「昼寝の時間か」
「んー……」
「何かあれば起こす、寝ろ」
「うぇー……折角の休日を、寝て過ごすかー……」
「贅沢の極みだな」
「……それもそっかー……ぐう」
小さく頷いてからあっというまに名無は夢の世界に旅立っていった。
それを見守っていた陣内ははあ、と息を吐く。
(視線が痛い……)
名無には気付かれないように気を遣われ、そして陣内にも一応気付かれないようにしているつもりらしいが、先程まで陣内が隠れていた屋根裏の方から漂う夥しいオーラを発する上司を思い、二度溜息を吐いた。
「……組頭、いい加減になさったらどうです?」
その言葉を受け音も立てずに部屋におりたった大男こと雑渡昆奈門は、分かりやすく頬を膨らませる。
過去に負った全身の火傷には勿論のこと頬も範囲に含まれており、動かせば当たり前の如く痛むだろうに。
「陣内は殿から信頼されているね」
「貴方も信頼されているじゃないですか」
「全然違うよ、信頼は信頼でも殿が甘えてもいい相手として信頼してるのはお前だし」
「……」
良い年こいて……とまた溜息を盛大につきたいところだったが、それはこの良い年こいて拗ねた昆奈門の気を悪くするだけなので、昆奈門より8つ年が上の陣内が大人としてぐっと堪えるのだった。
「あ、殿の寝顔かわいー」
それはそれとしておっさん(36)がおっさん(44)に可愛いと言うのは正直、きつい。
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