成り代わり | ナノ


我が父は善良だった。善良なだけの男だった。
我が母は無垢だった。無垢なだけの女だった。
我が弟は純粋だった。純粋なだけの男に育つ、筈だ。


「フ……フフフ、フッフッフッフ!」


俺は、違うな、おれはドンキホーテ家の血筋本来の残虐さを持って生まれた。我が家族の方が異端だった。おれの方は、所謂先祖返りと言う奴だろう。ドンキホーテ家に生まれたならば、おれの方が普通なのだ。
おれは、そう、俺は、識っている。弟がこの先、おれの目の前に現れることも。スパイという目的を持っていることも。海賊には向いていない性格の持ち主であることも。
何処で育っていたのか?誰が保護者代わりだったのか?全部、頭の中に入っている。
俺は非効率的なことは好きじゃない。
好きじゃない、のだが。
一度だけ。一度だけ、弟を見逃した。父を殺した日、逃げ出した弟の背中に銃身を向けず放って置いたのだ。
だから弟よ。世界に一人だけの愛おしい弟よ。もう二度とおれの前に現れちゃくれるな。
もう、一度は目を瞑ったのだから。二度目はない。






「――って思ってたんだがなぁ」


本当に残念だ、弟よ。
世界に一人だけの、愛おしかった弟よ。


「ナナシ……ッ!まさかそこまで――」

「おれに害を成そうとしなきゃ、おれは二度もお前を見逃してたさ」


お前が悪いんだ、ロシナンテ。
兄を切り捨てたお前が。


「じゃあな。両親の元まで送ってやるよ」


純粋で無垢で善良なお前らは、こんな世界生き辛くて仕方がないだろう?



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