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生まれ変わりを体験するのはこれで二度目。二度あることは三度あるというし、今回死んでもまた生まれ変わるのかもな。そんな事を考えてしまうくらいには暇だった。

今の俺に兄弟はおらず、両親は良く言えば放任方針、率直に言えばネグレクトだった。
出来婚の末に生まれた子に興味はなかったようだ。
興味がないというのに毎年の運動会には笑顔で参加し、家庭訪問で内側の不和を察知させず、授業参観は奇数年と偶数年で両親が交代で行うという処世術には感心する。
見てくれだけは立派な両親、恵まれた環境、見本にするべき一家。
金メッキで出来たハリボテである。

毎月十万円、月頭にテーブルの上に置かれている。それが俺の生活費。
ノートや鉛筆、学校で消費する道具や私服、食材を買う分の金だ。
水道代、光熱費代、家に関わる金は父が勝手に払っているようなので大きく金が引かれる事はない。
本当に俺が生活する為だけの金であり、随分と高いお小遣いといえる。

稼ぎは一丁前で滅多に帰宅しない父と毎夜違う男を相手にするのが趣味の母。まだ小学生の俺が教えてもいない自炊と洗濯していても驚くどころか違和感を抱いていない。俺に対する興味と関心は清々しいほど零であった。
これに関しては有り難いとしか言いようが無いが。
御蔭で毎日好き勝手に生活できる。
金銭の憂慮と暴力が存在しないタイプのネグレクトは生まれ変わりという奇異な経験を持つ俺にとってボーナスでしかない。

初めて生まれ変わりが起こった前世では随分とまあ"恵まれた"家庭に生まれてしまった為、外面を取り繕い常時舞台上の俳優状態だったが、今世では随分とまあ楽に生きられる。
故に、その分の暇が出来上がる。
だから、声をかけたのは只の暇潰しだったのだ。


「お兄さん。……ねえお兄さん、大丈夫?」


どうやら今回は同じ世界に生まれて変わっていたらしく、前世で幼馴染という関係だった折原臨也という男を発見した。最後に見た臨也の姿は目を丸くして状況を理解出来ていないただの少年だったが、今現在の臨也の姿は今にもパンクして周囲を巻き込みながら死んでしまいそうな程憔悴した青年。
取り繕うのが上手になったものだ。一見するとただの好青年にしか見えない。
だが、表層だけだ。


「元気がなさそうに見えて……本当に大丈夫?」




そうだな、思い返しているとこうして声をかけたのが分岐点だった。
分岐点ではある。しかし、それは些細なものだ。
臨也はきっと俺がこの時声をかけずとも何れ俺の存在に気付いていただろう。



「××」



俺を一目見た途端に表層が崩れ、愕然と見下ろしながら呟いたのは間違いなく前世の俺の名前。
今世の俺と前世の俺の容姿は当然の如く異なる。
そして当然、人は死んだらその時点で終了だ。転生を連想する者など現代日本には稀だろう。
しかし、臨也は成し遂げた。


「××――――!」



再び名を言い、"俺"を見つけ出した臨也を見て、俺はこの今世を臨也に奉げるのも良いな。そんな事を考えるくらいには感動した。


「今の俺は苗字名前だよ、臨也」



「――おかえり、名前」


俺を見つめる目がどのようなものであっても、見つかった事実に違いはない。
臨也を受け入れる。
何が起きようとも俺を見つけた臨也を裏切ることはない。


「ただいま、臨也」


だからお前だけの神様にでもなんでもなってやろう。




「おれの、かみさま」

壊れ物にでも触れるように丁寧に、そして万が一にも逃げられないようにと力の籠った腕で抱きしめられた。


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