子が誰に似るかなんて存外分からないもの


「お前の父ちゃん人斬りなんだってな!」

「貴様、えいりあんはんたーの子供だな」

「はぁはぁっお、お嬢ちゃん可愛いねえ」


殴られたら殴り返せ、五倍で。いや十倍だ。いやいや。なんて会話する父さんと母さんを思い出しから、番傘を使って撃ち返した。折衷案という奴であった。
意識が失った事を確認し、ずりずりと引きずって屯所へ向かう。
面倒な輩に絡まれるというのは間々ある事であるので、当初こそやり方が分からず大事に発展したが今では慣れたものである。子供だったら放置だが今回は犯罪者だったので警察に御用パターンだ。


「こんにちは」

「あ、名前ちゃん。遊びに来てくれたの?」

「ううん、ロリが好きな男が話しかけてきたから退治したの」

「ああ……」


門の前で見張りをしている人が遠い目になる。
父さんも母さんも綺麗な顔をしているので、その遺伝子を継いだ私も相応の顔だ。万事屋も真選組も皆可愛いねえと破顔して頭を撫でてくれる。それだけなら多少鬱陶しいが構わない。けれど、世の中には可愛い子を狙う犯罪者が横行しているのである。母さん譲りのパワーで捻じ伏せる事の出来る私は特に問題はないが、友達は弱い子ばかりなので早く撲滅してほしいところであった。

屯所は関係者以外立ち入り禁止だが、私は関係者なので顔パスで入れる。
筋肉が盛りついたむさ苦しい男たちが破顔して「名前ちゃんいらっしゃい」と歓迎しながらおやつをくれるのだ。御礼で御辞儀をすれば皆機嫌良く去って行く。半分の確率で名残惜しんで他の人に引きずられて行く。
目的の部屋の前に行き、襖を開けた。


「父さん、こんにちは」

「名前、来ちまったのか」

「うん。あのね、お母さんから手紙がきたの。三日後に帰ってくるって」

「そうか、ならその日は家族一緒に寝られるな」

「うん」

「名前」

「なに?」

「ポーチを父さんに寄越しなさい」

「嫌です」

「駄目です」


呆気なく取られてしまった。ポーチには皆がくれたお菓子が沢山入っている。父さんが夕飯の事や虫歯を考えて私の為を思い配慮していることは分かってはいるが、反射的に頬が膨らむ。そもそも、この程度で私の腹は満たされない。


「可愛い顔しやがって、父さんは負けねェぞう」

「お菓子食べたいよ」

「これだけな。後は明日」

「うん。はい、あーん」


チョコの袋から一個取り出して、父さんの口元に持っていく。きょとんと目を丸くしてから、嬉しそうに口を開けた。あーん。他の人だったらちょっとした意地悪でやっぱりやーめたをやるんだけど父さんと母さんにはしないと決めているから、父さんの口にチョコを放り込む。


「ありがとな、名前」

「母さんにもあげるの」

「俺にはもうくれねェの?」

「母さんの方がいっぱい食べるもの」

「違ェねえや」


父さんの膝の上に乗る。机の上には沢山の紙が置いてあり、どうやら書類を書いている途中らしかった。父さんのお腹に頭を預けて重くなった瞼を閉じる。眠い。父さんが絶妙な力加減で撫でてくれるから余計に睡魔がやってきた。


「あのね、父さん、私ね」

「おう」

「海賊になりたい、宇宙の」

「昼ドラに影響されたな。俺ァ取り締まる側だが、お前が悪になっちゃあ逮捕なんて出来ねえな」

「世界を牛耳るから、父さんはお仕事しなくてもいいのよ。母さんも。私が平和にするからね」

「頼もしいねィ。でも世界には強い奴がいるからな、お前に傷が付いちまうぜ。俺はお前が傷つくのは嫌だな」

「必要な犠牲という奴になるわ」

「俺も母さんもお前が世界獲る間なーんもしないっつう方がありえねえから、名前よりも早く俺が世界牛耳っちまうかもよ」

「どっちが先にできるか勝負かぁ、それも良いかな」


あとね、世界をとったらね、唐辛子をもっと多く栽培するように方針をとるのよ。沢山作るの。山葵とか辛子とか。でも一番は唐辛子。唐辛子王国建設しなきゃ。
夢を語っている内に、もごもごと口が動かなくなっていく。あ、もう駄目。おやすみ。


***
見た目ミツバ、性格神威。後に弟が生まれてその子は見た目神威、性格ミツバになる。


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