Thinking circuit 幼少時の名前にとって、自分とは=平均だった。 自分が知っていることは他の人も知っていて当たり前、知らない事を教えられたら相手を凄いと思い、出来ない事をやってのけられたら尊敬する。 極々ありふれた価値観の持ち主であり、小さい子にとっては普通の思考回路をしていた。 歯車が崩れたのはいったい何時だったか。 年をとり成長するごとに、できる範囲があがっていく。知識が増えていく。 年齢が二桁に到達する頃には夜兎族の血をひき運動能力が生れながらに高い名前に喧嘩で勝てる者は父以外いなくなったし、本を読むのが嫌いなわけではなかった名前からの質問に明確な答えを用意出来る者は消えた。 毎日少しずつ平均以下の人間が増え平均以上の人間が減っていき、名前にとっては妹の神楽に運動の仕方や知識を授けるのが日常生活での楽しみとなる。 「兄ちゃんなんでもしっててすごいヨ!」 「何でもじゃないよ。知ってることを教えてるだけ」 傍から見れば病気に伏せた母と幼い妹の面倒を看る立派な兄の姿に見えるだろう。 だが、名前にとって、甲斐甲斐しい世話をするための意欲は優しさからくるものではなく、ただの目的と借りの返済であった。 母にはこの世に産んでもらったという大きな借り。 妹には自分よりも年下なのだから劣っていても仕方がないと言う考えからくる育成の打算。 早く借りを返さなければ。 早く自分と同じくらい強く賢くなって貰わなければ。 そうでなければ俺が困る。 借りがあるなど良い心地がするわけないし、父が仕事で家を空けることが多い以上暇で暇でしょうがない。 母の世話を毎日せっせとするのは、言わば気持ちを軽くする自分の為。妹の世話を焼き勉強をさせるのは、言わば己に匹敵する対等者を作る自分の為。 「マミー、早くおからだ良くなるといいな」 「パピー、次はいつかえってくるかな」 「兄ちゃん、今日はいっしょにね――」 借りを返済し終わり、神楽に素質なしと見切りをつけた名前がこの星から去るまで、あと少し。 |