渇いて仕方がない


憎しみ、がない。
足りないのではなくないのだ。元から。

ロケット団に手持ちのポケモンを奪われた。
ある日、安っぽいリボンを大切そうに抱えたバタフリーが遠い町の人気の薄い所にある茂みで死んでいるのが見つかったと新聞に載った。
小さな頃こつこつと親の手伝いをして稼いだちっぽけなお金で買ったリボンと似通っていた。

家に侵入し漁っている真っ最中の強盗に鉢合わせした母が怪我を負った。
ある日、母の妊娠が発覚したがその後母は腹部を切り裂いた状態で首をつって自殺した。
ぷらんぷらんと揺れる死体の下に醜い肉の塊が落ちていた。

父が詐欺にあい失業した。
ある日、父は私の目の前で涙を流しながらすまないと呟き睡眠薬を大量に摂取した。
保険金に加入し二年を満たしていなかった為3000万は金は降りなかった。



分かってた。
あのバタフリーは私の大切なパートナー、トランセルが進化した姿だったって。
知っていた。
母は強盗にレイプされ子の中に私の妹か弟を宿していたって。
察していた。
時間がまだ足りない事を理解した上で娘を残し死ぬことでしか苦痛から逃れる方法が父には残っていなかったって。

ロケット団に。強盗に。父に。
奪われたことを。種を置かれたことを。遺されたことを。

それらに対して『憎む』力が私には足りなかった。

悲しいし、胸が痛いし、起こっている。

でも、憎しみの感情が出てこなかった。

私は一人の人間として、不良品だった。

憎しみが欲しかった。

他の人が醜い物だと吐き捨てる、普通の人間なら溢れ出る程持ち得ているそのゴミのような感情が欲しかったのだ。



「――行くか」

私の渇きを満たしてくれる、良品な人間を探しに行く旅に。
大丈夫。不良品がいるんだから、どんなことも完璧な良品だってきっといるはず。数は少ないだろう。見つけるための疲労はとんでもないだろう。だけど、私は行くことを決めた。理由?そんなの、不良品だからで十分じゃない?


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