燃え上がれデストルドー


それはそれは愛おしそうに幾度となく己の腹部を擦っては控えめに微笑む女性を、非常に残念ながら僕はよく知っている。こうして対面するのはあの馬鹿馬鹿しい結婚式以来だろうか。
必要事項にだけ目を通しすぐに憎らしいほど華やかな、愛おしい赤と反吐がでる黄で彩られた花柄の招待状を破り捨てた事を今でも鮮明に記憶。
それでも、あの人は世帯を持った今でも僕との関係を断ち切っていないのだから、何の問題もない筈だった。その日その場所その瞬間、大きく曲線を描いたそれを目にするまでは。


「久しぶりですね。お元気ですか?ルビーさん」


あいにく混雑した待ち合い室に空席は無く、診察を終えた一人の身重な生物に気を利かせた。もっとも、その妊婦が自分のよく知る人物であると判明したのは席を譲った後の話で。


「はい、イエローさんもお元気そうで」


嫌でも視界に入るその膨らんだモノを蹴り飛ばしてしまいたい。
願わくば母子共々、片方だって構わない。この手でこの人を幸せの絶頂から突き落とせるのなら。


「予定日はいつですか」

「再来月です。ボク、すごく楽しみで」


最後列。吐き気を催すほどに、午後の西陽はまるでその妊婦の笑顔をバックアップするかのように眩しい。決意は静かに固まった。


「折角なので、お茶でもご一緒しませんか」


ある男は矛盾している。見下ろす赤い業火の瞳にはちゃんと僕が映っていて、それを絶対に反らそうとはしない。赤。朱。緋。紅。見えない糸で繋いでいる同色をもつ男。もうじき一児の父親になるであろう人が聞いて呆れる。ぼやけた視界に映る顔を見上げながら始終そんなことばかりを考えた。


「だす、ぞ」

「……っ」

「ッ、きつ、ルビーお前、力抜け」

「ナマエさ……ナマエ、さん……!」


哀れな人。
心底愛する夫が他の人間しかも最悪なことに同性と関係を持っているとも知らずに独りで幸福に浸っているのですから笑えてきます。
結婚や指輪、そんなものは所詮。


「はっ……お前は一生、オレの腕に抱かれてればいい」


錯覚だった。紛れもない。こうして快楽を共有することで僕だけを見ているような幻覚。
だからこの一瞬に溺れる、求める。貴方が僕よりもあの女を愛していることくらい知っています。その上愛し合う二人の間にその証が宿ったというのですから、実に滑稽な話ですね。
ああ憎らしい、憎らしい。男としてこの世に生を受けた僕には決して同じような現象は起きないのだから。


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