魔法使いの君 『番外編・成り代わり』においてあるジェームズ成り代わりの試作品。 今までの私とセブルスとの会話が耳に入っているのかいないのか、集中して読書をしていた眼鏡をかけた彼は入寮の話題になった瞬間、手にしていた本を閉じて向かい合わせの席に座っている私とセブルスへ目を向けた。 「君、マグルなんだ」 「ええ、そうよ」 「それじゃあ少し、質問をしてもいいかな?」 「構わないけど……」 「おい、いきなりなんなんだお前は」 「セブルス」 いきなり喧嘩腰になることはないでしょう、と目を細めるとセブルスは慌てて、すまないと謝る。 私は顔を彼へ戻して、彼の言葉を待った。 彼は口を開くと、まるで幼少期の頃母が御伽噺を読んでくれたときのような口調で話し始める。 「勇猛果敢で騎士道精神溢れる、正々堂々とした赤と黄色の寮を君はどう思う?」 「そうね、良い所だと思うわ」 セブルスは彼の言葉に物申したいことでもあるのか、口をもごもごと動かしそわそわと身体を身動ぎさせた。しかし、穏やかに話す彼の雰囲気と先ほどの私の注意がセブルスの気をひかせているのか、実際に割って入ることはなかった。 「それじゃあ次。知的探究心が豊富で機知と叡智に優れた者が集う、青と銅色の寮はどうかな」 「私、知らない事が沢山あるの。入ってみたいけれど、私にその寮へ入る資格はあるのかしら」 「ある!」 前のめりになって、セブルスと私の顔と顔が近くなり思わず顔を赤めてしまう。 いろんなことを教えてくれる彼がそう断言してくれるのは嬉しいことだけれど、なんだか恥ずかしい。 どうしようか慌てていると、ふと目の前に座る彼と目が合った。 「入りたいと心から願えば、誰でもどの寮に入ることは出来るよ」 「そ、そうかしら?」 「そうさ。……次の質問、いいかな?」 「え、ええ。セブルス、少し落ち着いて」 「あ……ご、ごめん、リリー」 距離の無さに気が付いたのか、セブルスはやっと元の位置に戻り気分を入れ替えるように息を吐いた。 「3個目の質問。断固たる決意を持ち、多少規則を無視してでも己のやりたいことを成し遂げる、時に赤と黄色の寮以上の勇気を持つ緑と銀色の寮は?」 ここまでくると、眼鏡の彼がいう『寮』は想像や例え話のものではなく実在する物であるということは察しがついている。 緑と銀色。 これは、私の隣に座っている彼が入学前から勧めてくる寮だ。 セブルスは彼の言葉にピクリを反応を見せるけれど、会話に入る雰囲気は見せない。 「ルールを破るのはいけないことだわ。でも……そうね、私が読んだ本の主人公たちは多かれ少なかれ秩序を破っている事が多いから、きっとそれを守るだけじゃ、手から零れ落ちるものを多いのよね。……この寮も入ってみたいわ」 「そうか。僕もそう思うよ」 眼鏡の彼とも違う、隣に座る彼でもなく、そして私でもないこのコンパーメントに存在する残りの一人が寝返りを打とうとしたのか身じろぐ。 「それじゃあ、最後の質問。さっき上げた3つの寮以外に適正が無い者はここへ流れるという心無い噂が流れている、実際は心優しく勤勉で、そして忍耐強い人たちが集まるカナリア・イエローと黒色の寮はどうだろう」 私はニッコリと笑って答えた。 「素敵だわ」 「……君はきっと、どの寮にも入れるだろう。組み分け帽子は君が望む所へ入れてくれる。君と同じ寮へ入ることが出来たら、それ以外の寮の男子からきっと妬まれるね」 「えっ……」 動揺する私といきなり立ち上がって睨みつけたセブルスを置いて、彼はにこやかに微笑を浮かべる。 そして杖を取り出して言った。 「僕はナマエ・ポッター。君たちと一緒に楽しい学校生活を送りたいと思ってる普通の男の子。リリー、セブルス。……それから、狸寝入りしてるハンサムな君も、これから7年間、どうぞよろしく」 今まで多少の動きを見せていた毛布が、不自然に停止する。 何から何まで不思議な少年だった。 マグル生まれに対しては偏見を持たれやすいとセブルスから教えてもらっていた私だけど、彼はきっとそんなどうでもいいことは気にしないだろうと、何故か心の底から思うことが出来たのだ。 そして、彼と共に同じ寮に入ることが出来たら、その後の7年間はきっととても満ち足りた物になるであろうという確信を得て、私は彼に質問した。 ――ナマエ、貴方は赤、黄、緑、黒のどの寮に入りたいの?と。 彼はきっとこう言うのだろう。 どの寮でも構わない、と。 |