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事前に久々知に発破をかけたので、委員会時に久々知が出現した。此処から先は当人達の努力次第だろう。
「馨君はお優しいですね〜」
「ふふ、褒めないでください」
アルバイトや忍務で溜めた銭で買った酒、おばちゃん特製のツマミを持ち、友達と共にゆっくりと語り合う。他の奴らに賄賂を渡してもぎ取った今夜の休みでストレスを全て洗い流すのだ。
「いい加減委員会活動も面倒になってきたし、自分らで動いて欲しいもんなぁ?」
「……」
「ああー!俺の焼き魚!」
「とても美味です」
「食いすぎだよ!」
グッと親指を立てると反発されてしまった。なんて心が狭いんだろうか、もっと僕を見習ってほしいものである。擦り下し大根と醤油のコラボレーションが大変素晴らしい……友達の実家が作る醤油の味と香りは花丸満点だ。猪口に入れた酒を呷り、この満足っぷりに笑顔が浮かぶ。
友達も僕も酒が進み、酒が進めば自然と興が乗ってくる。
「大五郎」
「あ?」
「賭けをしませんか」
唐突な僕の言葉に友達はにやりと愉しげに口角を上げた。
「何を賭ける」
「"西園寺正行が誰と付き合う事になるか"」
童のように目を輝かせる友達に賭けの内容を告げれば、友達は大口を開けて笑い、膝を強く叩き頷いてみせた。存分に笑いきると目尻に溜まった涙を拭う。
「あー、確かに俺もそれは俺も気になってたわ……同時に予想先を言い合う、でいいよな?」
「ええ。僕はもう決めていますよ。大五郎は?」
「俺はなぁ……ちょっと待て。ううむ」
道化のように大げさな仕草で悩む友達を眺めながら煮っ転がしを口に運ぶ。
普通に考えれば鉢屋。彼奴は一年の頃から西園寺先輩のことが好きだった。何時もは強固なディフェンスを築いている六年生が傾国の美女に惚れ消え去ってから、西園寺先輩に急接近出来てさぞご満悦だろう。
だが、四年の穴掘り小僧や山田先生の息子も負けていない。年下の愛嬌や年上の余裕など、独自の持ち味を活かし確実に西園寺先輩の好感度を上げている。
可能性で言えばこの三人の何れかになるだろう。
「よっし、決めた!」
誰に賭けるか決めた友達を見て、飲みかけの猪口を置く。
「ではいっせーのーせ、で」
「「いっせーのーせ」」
「善法寺先輩」
「善法寺」
「……被ったな」
「被りましたね」
同時に肩を竦めあい、可笑しさから腹を押さえて笑いだす。
ああ、本当に、此奴とは合うんだなぁと改めて認識した。
「あの人、一服盛って一夜の過ちを犯すでしょうしね」
「天女にも盛ろうとしてたらしいぜ?怖い怖い」
「おやおや。そんな気はしてました」
「七松が乱入してミスったみたいだがな」
「誰に惚れていても変わりませんねえ、その一連の流れ」
西園寺先輩が好きだった時から彼の責任感が強い性格を利用して身体を繋げようとしてそのままずるずると付き合おうとする魂胆が見え見えだったが、天女に鞘替えしてからも行動パターンが変わらないのは笑うしかなかった。
天女を見限って、また西園寺先輩に戻ってもどうせ薬を飲ませようとするだろう。人間、そうそう変われない。
好きな人はほいほい変わってるけどな!
「今から賭ける相手変えるか?」
「僕は変更しませんよ」
「俺もー」
「勝つも負けるも一蓮托生ということになりますが、よろしいですか」
「それもまた面白い!」
では、勝ったら遊女と僕ら二人で仲良く遊んで。負けたら一ヶ月遊郭通い禁止にしましょうか。
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