気まぐれ部屋 | ナノ




全ての始まりは一冊の本。
赤司家に生まれた双子の妹、赤司馨は身体が弱い薄幸の少女であった。

「兄様、おべんきょうがんばってください!」

控えめに笑う姿は幼いながらも美しく、将来はきっと美女になるだろうと簡単に予想される純粋無垢な少女であった。
そして何よりも勤勉家で、父親が無理強いしなくても本を沢山読み、頭の中の知識を次々と深めていった。

もし、馨が本を読むことが嫌いだったなら。
もし、誰よりも怠けていたとしたら。


――馨が小学校低学年の時の事である。

「あら、これは何かしら……?」

馨は通学路に落ちている、一冊の本を見つけた。その本は馨が普段読む本よりずっとずっと薄く、だが絵本と違って表装は厚くない。
そしてその本の表紙は綺麗なカラーで、表紙に描かれた登場人物らしき男は日曜の朝8時に見かける男性俳優に似ていた。

いけないと思いつつ、まだまだ理性が薄い子供であった馨はこの本を手に取り、パラパラと捲って読んでいく。
段々読むスピードが速くなっていき、速くなっていき、速くなっていき、そして馨は本を閉じた。

「……」

それから馨は落ちていた本を元の場所に戻し、早足で家へ戻る。


もし、馨が征十郎と同じように車通学だったとしたら。
もし、その日偶々風邪を引いて学校を休んでいたとしたら。

今の赤司馨は存在しなかっただろう。



「あ、兄さんおはよう。今日も可愛いおケツと綺麗なお顔だね。何々、ついに同級生たちに輪姦されちゃった系?」
「馨こそスッキリと起きられたようだね、おはよう。おや、肌のつやが良いじゃないか。そこら辺のメイドとランデブーでもしたのかい」

――日本有数の名家、赤司家の大切な子息がこうなることもなかったであろう。


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