イタチの部屋には暗闇が息を潜めていて、窓から差し込む淡い月明かりだけがぼんやりと部屋全体のシルエットを映し出していた
本棚、小さな時計、ベット。ここには、必要最低限の物しか置いていないらしい
それだけに、やけに無機質な空気が漂っている
ベットの中で深い眠りに身を委ねているイタチは、そんな空気に溶け込んで、機械のように規則正しい呼吸を繰り返している
チャクラは穏やかに乱れ、幻術は彼の脳内を支配していた
イタチの発する二酸化炭素が、瞼の奥に隠された瞳が、かすかな微笑みを浮かべる唇が
こんなにも、愛おしくて
流れる川のように滑らかな髪を撫で、愛したいと心から願う
だけど、そんなことが許されるはずもなく
「さよならだ、イタチ」
俺は空間に向けて、小さく呟いた
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「マダラさん」
部屋を横切り、ドアノブに手をかけようとした時、後ろから少し掠れた声が聞こえた
起きてしまったか、と俺は心の中で小さな舌打ちをした
「夢を、見たんです」
イタチはゆっくりと噛みしめるようにそう言った
まだ完全にこちらの世界に戻ってこれてないらしい
「そうか」
振り向かずに言った俺の言葉は、ドアに固く張り付いてゆっくりと吸い込まれていった
イタチが起きてしまった以上、俺はすぐにでもこの部屋を抜け出してしまいたかった
「家族が俺の誕生日を、祝ってくれました」
イタチの声が少し色彩を帯びた
俺の心は少し影に染められた
「良かったじゃないか」
そう答える俺はまるで他人事のようだ
どうやら俺は嘘をつくのが苦手らしい
「ねえ、マダラさん」
「なんだ」
「素敵な誕生日プレゼント、ありがとうございました」
「何のことだ」
「昔飼っていた猫も忠実に再現していた辺りが流石です」
一度はとぼけてみたものの、そんなことでこいつを騙せるはずがないと悟った俺は小さくため息をつき、振り向いた
「俺の幻術を解くとはな」
「俺から言わせてみれば、俺を幻術にかけた事自体凄いですよ」
生意気なやつ、と顔をしかめるとイタチは嬉しそうに笑った
「で、お前はどうするんだ」
「決まってるじゃないですか、」
そう言うと、イタチはベットから抜け出し、しっかりとした足取りでこちらへ歩いてきた
聞きたくなんかなかった
言ってほしくなんかなかった
それでも、耳元で囁かれたその言葉は
"あなたのそばにいますよ。ずっと"
こんなにも俺を傷つけるのに
「俺には、もう、あなたしかいませんから」
そう言って俺の頬をなぞる指は酷く弱々しくて、秋の風に揺れる小枝を思い出させた
「愛してます」
唇が触れる前にお前の頬に涙が伝ったように見えたのは、俺の見間違いだというのか
想耐性理論
(頼むから、)
(俺のことなんか忘れて)
fin.
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イタチの誕生日に遅れるのにもほどがありますよね。すいません
誕生日おめでとう文なのにシリアスになっていまったのは何故
ちょっと意味が分からないっていう方がいましたら、遠慮せずに聞いてくださいね