今朝、いいや先日の試合からかな。みょうじさんと瞬木君の様子がおかしいのは。――とはいっても、瞬木君の方はただ前々から垣間見ていた本性を出せるようになった、吹っ切れただけのようにも見えるかな。それはもう今となってはみんなが認知していることだから、「おかしい」と表現するのがおかしいのかもしれない。そして、みょうじさんはその変化に慣れず困惑しているだけのようにも見える。
 でも、違う。僕にはそれだけじゃあないと推理するよ。
 まず1つ目。みょうじさんの瞬木君への態度の変化。以前までは僕らに比べてクセが少なく、比較的無難な会話ができる瞬木君と彼女は自然に会話ができていた筈だ。なのに今はどうだろう、あのぎこちなさだ。
 みょうじさんは元々美術部に所属していたというし、他人と会話をする事自体に慣れていないんじゃないかな……って思うんだけど。そんな彼女にとって、以前の瞬木君はきっと数少ない自然な会話ができる存在だったんだろうね。
 これだけじゃあただ困惑しているだけだと思うかもしれない。けど、2つ目がどうしても不可解でならないんだ。
 朝の練習前から、瞬木くんの様子がやっぱりおかしい。本人はその気じゃないんだろうけど、いつもに比べて不機嫌な感じがするんだ。加えて、さっきから頻りにみょうじさんに視線を向けている。これも、もしかしたら無意識なのかもしれないね。……あ、これで食堂に来てから13回目かな。
「……な、なに?」
「別に、たまたま目が合っただけだろ」
 今回は偶然にもみょうじさんと目が合ったみたいだ。まさかこうなるとは思わなかったのか僅かに目を見開いたの、僕は見逃さなかったよ。彼、やっぱり不機嫌みたい。それも、僕の推理ではみょうじさんが一枚噛んでいるようだね。

 瞬木くんの一言で短く切れた会話の後、彼らがまた会話をすることは一度もなかった。
 食堂での様子からみょうじさんが何か知っているだろうと読んだ僕は、彼女の部屋へと足を運んだ。昼間、戒めの言葉を吐き出したばかりなんだけど、流石に二人のあの状態を放っておくのもチーム全体の士気を下げてしまうかもしれないしね。夕食の時なんて、キャプテンがなにか感付いたのかそわそわ落ち着かない様子で瞬木くんを見ていたからね。

 突然の来客に戸惑いながらも通されたみょうじさんの部屋の中はシンプルで、小さな絵画や画集のひとつやふたつ持ち込んでいそうだと予想していたために、不思議そうな目で部屋を見渡してしまったかもしれない。ちょっと失礼だったかな。
 彼女に促されて適当に腰を下ろすと、みょうじさんもその正面に座った。「皆帆くんが訪ねてくるなんて珍しいね」最近漸くひきつることのなくなった笑顔と、もしかしたらこれから傷を抉ってしまうかもしれない罪悪感にくらくらしたけれど、僕は一拍置いてから口を開いた。
「瞬木君と何かあったの?」
「え、えっ……と、特に何も」
「そっか……。彼、今日機嫌があまり良くないみたいだったから、気になっちゃってね」
「そ、そうなんだ……」
みょうじさんは素直だ。本人は気づいていないかもしれないけれど、嘘をつくとき、右手の先がそわそわとやり場がないみたいに震えてる。「ねえ、本当に何も知らないのかい」それに、もう一推しすると耐えられずに本当のことを打ち明けてしまうことだって、今までの行動から予想できる。
「私も、解らないの。 今までみたいに瞬木くんとお話しできないから」
 そう言って、心底悔しそうに、悲しそうに歯をくいしばったみょうじさんは俯いた。しまった、これは予想外だったな。小さく震える彼女の膝がぽつぽつと染みを作り始める。どうやら泣かせてしまったらしい。追い払ったはずの罪悪感が再び込み上げてして気を抜いたら戻してしまいそうな感覚に襲われる。
「『ごめんね』って言っちゃったの。 謝ったってなにも変えられるはずない意味のないことだって解ってたのにな」
嗚咽混じりに彼女はそう言った。ああ、なるほど。今日特にこの二人が気まずかったのはきっと。「みょうじさん、落ち着いて聞いて欲しい」右手を口許に当てて業とらしく咳払いをひとつ。大丈夫、この二人はきっかけさえできればこの気まずさもはね除けられるよ。
「君は、瞬木くんが素のままを出すようになって話しかけづらいかもしれない。 けどね、彼からしたら君は何も変わっていないし、みょうじさんと話した彼もそのままあそこにいると思うんだ」
だって、誰も全くの別人になった訳じゃないんだから。

 みょうじさんは頭では理解しているようだったけれど、心が追い付けていないみたいだった。それでも「少し落ち着けた気がする」と笑っていたから、あと一歩ってところかな。おやすみ、それじゃあまた明日。簡単に挨拶を交わしてみょうじさんの部屋のドアノブをぐるりと捻った。

 ――まさか、その直後に外で待機していたらしい瞬木くん本人と鉢合わせするとは思わなかったけれど。

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